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私の代わりにアシㇼパが答えた。
「あの男が捕ってるのイトウじゃないか？交渉して一匹分けてもらおうぜ」
なにかに気づいたようにアシㇼパが「あっ」と声を出した。
「キロランケニシパ！」
「アシㇼパか？」
アシㇼパの呼びかけでこちらに振り向いた男の顔を見た時、自身の心臓がドクンと脈打つのを感じた。
まただ。
またこの感覚。
私はこの男と、会ったことがある。
けれど、一体いつどこであったと言うんだ？
可能性があるとするならば、私が第七師団に入る前か。
いや、もっと前だ。
博文が第七師団所属になってから家に帰らなくなるまで私はほとんど家から離れていない。
つまり、第七師団発足前のことだろうが……
「黒木！」
「！」
私を思考の沼から引きずり出したのはアシㇼパの声だった。
「置いて行くぞ！」
「あ、ちょっと待ってくれ」
白石がキロランケと呼ばれた男の元へと横たわる橋をわたる。
バキャッ
ところが橋の一部の木が折れ、白石は頭から川に落ちていった。
「あーあ」
「何やってんだこのバカは」
「すぐに火を起こそう」
呆れ声をあげる私と杉本とは対照的に、アシㇼパは白石が死なないよう火を起こし始めた。
「ここすげえ深い！助けて冷たい！」
「こっちに掴まれ役立たず」
「気を付けろ。他の場所も壊れるかもしれんぞ」
水辺だと木は変形し、ゆがみやすい。
恐らくそのせいで留口も変に歪み壊れてしまったのだろう。
次に目に入った光景がそんな呑気な思考をかき消した。
ポチャンと、白石が巨大な魚により川の底へと引きずり込まれたのだ。
「イワン・オンネチェプ・カムイだッ！」
「白石が食われた〜〜〜〜〜ッ」
「イトウの歯は小さいから捕食に時間がかかるはずだ！まだ間に合うぞッ！」
二人に続けて私が叫ぶと、キロランケがマキリを引き抜き白石が消えた川へと飛び込んだ。
「シライシィ！
白石ぃぃ…」
杉本の声が弱々しくなる。
……間に合わないか？
バシャンッ
私の考えを否定するように、目の前に巨大魚、
そしてそれにマキリを突き刺ししがみついているキロランケの姿が舞い上がった。
「シライシはどうなった？」
三人で急いで駆け寄る。
「人魚だ」
白石が幻の巨大魚に捕食されかけている様は、まるで先程話していた人魚のようだった。
人魚はもっと美しいと聞くがな。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
