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「根元から梢まで一気に剥がすことができる。ホラ、ふたりとも見てないで手伝え。黒木は怪我をしてるから、無理はするな」
アシㇼパが労りの声をかけてくれる。
「ありがとう。だが平気だ。私も手伝う」
これでも私は軍人だ。
戦争では腹や頭、足を撃ち抜かれたからといって砲撃が止むことはなく、ただただ進み続けた。
これくらいなんてことは無い。
「剥がした樹皮の一部で帯を締め、着物が風で脱げないようにする」
「優しい心遣いだね」
「硬い外皮は取り除き、内皮を温泉や水溜まりにつけておく。それを丹念に編むとアットゥシという反物ができる、その反物で仕立てた着物がアットゥシアミプだ。アットゥシアミプは水に強く通気性に優れとても丈夫な着物なんだ。薄い繊維の層が重なっている状態だったものが一枚一枚剥がれていく。更に細く裂いてよりをかけて糸を作る」
話を聞きながら、オヒョウの皮を剥いでいく。
ベリベリと剥がれてくれるので、これが案外楽しかった。
「よし、もう十分だ。これでだいたい一人分の着物になる」
「オヒョウの皮を剥ぐだけでも重労働だな」
ドサッと地面に倒れ込みんだ白石が言った。
私はこれからの作業を考えるだけで頭が痛くなるのに、それはアイヌの人々にとっては当たり前のことなのだ。
本当に尊敬してしまう。
白石がなにかに気づいたように言う。
「ねえ杉本、黒木ちゃん見て。福寿草の花が咲いてるヨ？」
「ヤダかわいい」
「もう花の咲く季節か」
若い女のような会話をしている二人に混ざり、私も福寿草の花を見る。
黄色い凛とした立ち姿。
私の好きな花のひとつだ。
「春が来たんだな」
そう言った杉本の声はやけに優しいものだった。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
