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「見ろ杉本。これがオヒョウの木だ。コタンに帰るついでに皮をはいで帰ろう」
アシㇼパが木に手をかけた。
「木の皮をはぎに行くことを私達は『アッケプ』という。今の季節は木の根元の雪が解け始め地中の水を吸い上げて樹皮が剥がしやすくなっている。この時期を過ぎて雪が無くなると樹皮は幹にくっついてしまって剥がしずらい」
何も知らない私たちにアッケプの説明をしてくれるアシㇼパ。
本当にこの子は物知りだな。
土方さんが見たらきっと驚くだろう。
「剥がしてどうするんだ？焚き付けに使うのか？」
「おいおい杉本〜ほんとにお前は何も知らない男だな」
杉本を馬鹿にするように言ったあと、キメ顔で
「私の着物はオヒョウの樹皮を編んだものだ。紐や袋も同じ樹皮で出来ている」
と言ったアシㇼパはやはりすごいと思う。
色んな意味で。
「木というのは山に座っているカムイであって、皮を剥ぐのは大切な衣服をいただくということ。だから捧げものが必要だ。普通はタバコなどを捧げるけど誰も持ってないから白石！飴ちゃんを出せ」
飴ちゃん！
白石に向かい手を伸ばすアシㇼパの言葉を心の中で繰り返した。
「くーん」と変な鳴き声をあげる白石の懐から出てくる包みに私の視線は釘付けになる。
もうしばらく甘味を口にしていない。
……食べたい。
そんな私の思考を読み取ったのか、ただ単に刺さる視線が痛かったのか。
白石が「食べる？」と言ってくれたので遠慮なく頂戴した。
白石は思っていたより悪い男じゃないらしい。
飴を口に放り込むと、久々に感じる甘さに唾液腺が弾けそうになる。
いつぞやの杉本の言葉を思い出す。
「美味しそうに食べるね〜」
「甘いもの好きなんだな」
という白石と杉本の言葉が聞こえた。
「カムイ コソンテ クアフプカン ナ(神様の着物をいただきますよ)」
私達がそんな会話をしている間にアシㇼパはオヒョウに捧げものをしていた。
「樹皮は全部剥ぐと死んでしまうので、南側の樹皮が厚い『せなか』の方いただく。北側の樹皮が薄い『おなか』は残しておく」
人の利益ばかりを考えず、動物達の住処を無くすような真似はしない。一本の木にも敬意を払う。
新しく知るアイヌの教えに、私はより惹かれていった。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
