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杉本がつぶやくように言った後、またすぐこちらに問いかけてきた。
「第七師団で土方について何か分かってることはないのか？」
なにかあっただろうか。
「最近、土方さんが銀行強盗を働いた以外は特に……」
記憶を呼び起こしながら口に出す。
杉本と白石が一斉に体ごと視線をこちらに向けた。
驚きで「うおっ」っと声が出てしまった。
「黒木ちゃんって、土方と面識あるの？」
「は？」
これまた思わず声が出る。
「土方『さん』って敬称つけてただろ」
「あー、」
やってしまった。
思考が纏まっていない段階で安易に口に出すものじゃないな。
「面識があると言っても、小さい頃に一度、父に連れていかれた監獄で独房の扉越しに少し話しただけだからな。見た目も人柄も、ほとんど分かんねぇよ」
せっかく飲み込んだ言葉が無駄になってしまったではないか。
二人とも納得してくれたようで、また前へ向き直り、足を動かす。
「とても七十を超えてるとは思えねえ若々しさがあったな。人魚の肉でも食ったんじゃないかって囚人達から言われていた」
「にんぎよ？」
白石の話はずっと何も話さず黙々と歩いていたアシㇼパの興味を引いたようだった。
「上半身が人間で下半身が魚のバケモノさ」
「人魚の肉を食べると永遠の命と若さが手に入ると言われている」
杉本の説明に繋がなるように言う。
すると、白石がより詳しい話をしてくれた。
「八百比丘尼っていう伝説があってな。人魚の肉を食べた娘が不老不死になるのだが……。永く生きると愛する者の最後を見送るばかり。娘は何百年も生き尼となって最後には世を儚み岩窟に消えた」
言い終わると、今度は杉本がポツリつぶやく。
「死すべき時に死ねないつらさか……」
その言葉に、私は思考をめぐらせた。
私の死すべき時は、いつ来るのだろう。
それとも私はその時を、既に逃してしまったのだろうか。
……あの子の死すべき時は、本当にあの日だったんだろうか。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
