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「アンタなぁ！」
「私はもう出ていくよ」
杉本が怒りの声をあげたが、私はそれを遮るように言った。
白石が焦ったように何やら言っているが、私は気にすることなく杉本達が下ろさせたであろう、私の荷物を背負う。
「やりたくないことをやらせようとは思わない。アシㇼパはまだ幼い。もっと、明るい道を歩むべきだ。邪魔して悪かったな。……飯、美味かったよ」
「ありがとう」と、最後に告げて、小屋を後にした。
まずは、尾形を締めに行かなければな。
「待て！」
後ろから聞こえた叫びに従い、歩みを止め振り返る。
「なんだ？言い忘れたことでもあったか？アシㇼパ」
「傷はまだ治っていないはずだ」
「それがどうした？」
「まずは治るまで、私達と一緒にいるといい。私には薬草の知識もある。その傷には薬が必要だ」
その言葉に、私は驚きを隠すことなく表情を表に出す。
「良いのか？私はお前の望みには従えない。殺すべき奴は殺すぞ」
「私は、人を殺したくは無い。だがお前の言うように一人の血も流れないとは思っていない」
アシㇼパの後ろから顔を出している杉本と白石が見えた。
白石は刺青の囚人だ。
それなのに、白石は皮になっていない。
「それで『殺さなくていいやつは』か」
その純粋な慈悲深さに微笑する。
「でも、お前の気持ちは分かる。大切な人を失うのは辛いことだ。鶴見中尉をうつことがお前の生きる意味だと言うなら、私は止めない」
この子は、不思議な力を持ってる。
私は『気持ちが分かる』と言われるのが大嫌いだった。
にもかかわらず、この子の言葉は、こんなにも暖かく私の心に響いている。
「……アシㇼパ。私はもう一つ、お前達に話していない目的がある」
「なんだ？」
「私は、アイヌの文化を守りたい。アシㇼパ、私に、アイヌを教えてくれ」
美しいその瞳を細め、優しい微笑みを浮かべながら、幼き少女は言う。
「あぁ。もちろんだ」
その後ろから、微かに声が聞こえた。
「良いのか？杉本」
「アシㇼパさんが良いと言ったんだ。俺はそれに従う。それに、アイツは多分悪いやつじゃない」
一拍置いて、琥珀色のその瞳で真っ直ぐこちらを見据えて言う。
「信用出来る」
不死身の男のその一言が、視線が、私の耳から心へと響いていった。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
