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「生憎ですが、私は何も知りません。埋蔵金の話も今聞いて初めて知りました」
嘘では無い。母がアイヌだったといっても、教わったことなどほとんどなかった。
「隠し場所は分からない。しかし手がかりならある」
「手がかり、ですか」
宇佐美が言った。
「男は金塊の隠し場所を変えるため、支笏湖へ船を出した。だが船は転覆。そのまま男は網走監獄へと収容された。そして男は監獄の中である方法を使い、金塊の在処を示した。……暗号の刺青を掘ったんだ。囚人の身体にな」
「ほぅ。中々のことをしますね。その男も」
今まで何も口を挟まなかった尾形が、右の手のひらを頭に滑らせながら言った。
「だがその囚人達は移送中に全員逃亡した」
「それで？私の母との関係は？」
「男はのっぺら坊と呼ばれている。そして、のっぺら坊は——アイヌだ」
「……なるほど。母がアイヌだった私なら、その暗号が解けるかもということですか」
鶴見中尉はにやりと頬を釣り上げた。肯定の意図だろう。
「無理だ。私はほとんどアイヌの知識を持っていない。知ってるのは言葉くらいだ。詳しい文化や教えについての知識は無いに等しい」
私は目の前の男を睨みつける。
何処までも私を利用しようとしているこの男に腹が立ってくる。
すると、ずっと押し黙り、仏頂面を晒していた月島が「黒木」と声をかけてくる。
その表情には少し力が入っていた。
「敬語」
「っ、くそっ」
威圧するような声色。
つい、敬語が抜け、昔の口調に戻ってしまった時はいつもこの様に月島から注意を受けていた。
「ふむ、だが見てみないことには何も言えんだろう」
「……どういうことです？」
「脱走した囚人の情報が入った。尾形と宇佐美、黒木の三名で向かえ。聡い君ならばこれ以上言わなくても分かるな？」
あぁ、私はいつになったらこの男を——
「「了解致しました」」
殺せるのだろうか。
そんな事を考えながら私は昔の出来事へ、
今朝見た夢の続きへと想いをはせた。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
