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「……中尉殿の命令か」
「そうだ」
月島は即答する。
「あの方は尾形になにか疑いをかけているのか？」
鶴見中尉は尾形へ疑いの目を向けている。
だからこそ、目を覚ました時、監視役がいなければ尾形が逃げ出してしまうと考えたのではないか。
「疑いとは？」
愚問だ。
「例えば——
造反の疑い、とか」
「さぁな。俺は知らん」
「……」
またもや即答した月島へ鋭い視線を向けた。
お前が知らぬはずがなかろう。
「ほら、さっさと部屋へ戻って休め」
誤魔化すように言う月島に私は「分かってるよ」と返し、戸口へ手をかけた。
そこであることを思い出し、月島の方へと向き直る。
「ああ、そうだ。宇佐美知らないか？」
「宇佐美？何か用か？」
小首を傾げる月島。
私の方から大きく話題がずらされるとは思っていなかったのだろう。
「いや、用ってほどじゃないんだがな。銭湯に誘おうかと」
そう。私は月島と会話をしている最中も、この後何をするか頭の片隅で考え、やはり銭湯へ行くことに決めたのだ。
そして、一人ではなんなので、宇佐美を誘おうと思ったのだ。
「……銭湯」
俯いた月島の口から、ぽつりと聞こえた。
「っ、別に月島でも良かったんだが。お前まだ仕事あるんだろ？」
私が月島の前に積み上がっている書類の山を指さし言う。
すると月島は無言でその書類達を恨めしそうに見つめた。
「……宇佐美ならさっきやっと仕事が終わったと言っていたから、今は部屋で休んでいるんじゃないか」
「そうか。ありがとう」
紙の山を見つめたまま言う月島に軽く礼を返し、もう一度、部屋を出ようとする。
「黒木」
「ん？」
今度は月島に呼び止められた。
「ゆっくりしてこい」
「あ、あぁ。ごめんなぁ、月島」
こちらを真っ直ぐに見据えて言う、月島の顔は疲労で満ちており、なんだかとても申し訳ない気持ちになった。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
