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「二階堂浩平一等卒」
「っ、」
私はすぐに笑みを引っ込め、杉本の前で片膝立ちになったまま、残った片割れの男の名を口にする。
私の声に威圧された二階堂は未だ、涙は溢れ出しているものの叫ぶのはやめたようだ。
しかし、少しだけ開いた口元からは、小さな悲鳴が漏れ出している。
「私は忠告したはずだぞ。次はないと」
私は一人残された双子の片割れに呆れたような視線を送った。
私が忠告したのは、次やったら『私が』お前らを殺す。ということではなく、次やったら『杉本』がお前らを殺すという意味だった。
仏の顔も三度までの仏は、杉本を指していた。
つまり、こいつは私の忠告を無視したが故に、大事な片割れをなくしてしまったのだ。
「なっ、ぁ、あ、"あ"ああぁぁぁ！」
二階堂の叫び声が、鼓膜を大きく揺らす。
耳が痛いくらいだ。
私はその五月蝿さに、眉を寄せ、目を細めた。
すると廊下からコツコツと、足音が聞こえてくる。
大将のお出ましだ。
「扉を開けた時には既に、中はあの有様で」
騒ぎを聞き付けやってきた鶴見中尉に兵士の一人が、状況を説明する。
「腸が、」
「長くは持たん」
部屋の外からコソコソと、そんな会話が聞こえてきた。
「まさにかや口の蝋燭だな。杉本」
鶴見中尉が死にかけの杉本に対し、そんな軽口を叩く。
すると、鶴見中尉がこちらをじろりと見つめてきた。
私は少しの間、それを見つめ返し、杉本の臓物の溢れ出す腹に、視線を戻して言う。
「……私は医者では無いのではっきりしたことは言えません。けれど、彼の行末は誰の目から見ても明らかでしょう」
「助けろ。刺青人皮でも何でもっ、くれてやる」
息も絶え絶えの様子で、杉本は鶴見中尉に投げかけた。
鶴見中尉は不気味に笑う。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
