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「何度も言ってるだろ、嫌だ」
そう。私は何度も何度も同じことを言われていた。
私の階級は上等兵。月島の階級は軍曹。
つまり、月島の方が立場が上なのだ。
だから私は本来、こいつに敬語を使わねばならない。
だが私はこの男に一度も敬語を使ったことが無かった。
しばらく睨み合った末、先に折れたのは
「全く、お前は」
月島の方だった。
大体いつも、こうなるのだから放っておいてくれればいいものを。
「さっき尾形にも会ったが、怪我をしていたぞ。話を聞いてみたらお前にやられたそうだな。宇佐美」
「いやぁ、まぁ」
あからさまに目を泳がせる宇佐美。
ドッと脇腹を肘でつつかれる。
地味に痛いからやめて欲しいんだが。
「なんだよ」
「お前もなんか言えよ。僕だけ悪いみたいじゃない」
「実際お前しか悪くないだろ」
まぁ、若干もう一名悪いのがいるが。
コソコソと言い合いをしている私たちを見ていた月島が「はぁ」とため息をつく。
「喧嘩は程々にしろよ」
『はーい』
間延びした返事を返した私たちに月島はもう一度ため息をつくと、横を通り過ぎ、先程まで私、尾形、宇佐美。そして、鶴見中尉のいた部屋へと入っていった。
「もうそろそろ鶴見中尉殿も、皮をはぎ終わった頃かな。はぁ、僕も鶴見中尉に皮を剥がれたい！」
「……はぁ、」
私は宇佐美に湿った視線を向けたあと、月島と同じようにため息を吐いた。
頭の中で、あの部屋で見た光景を反芻する。
私が切り裂いた首元の生々しい傷口。
そこから下へ広がる、直線と曲線、そして所々に描かれたいくつかの漢字の刺青。
その肌の色は青白く、身体はすっかり脱力されている。
その瞳には光が宿っていない。写しているのは何処までも続くような闇と空虚さと虚しさのみ。
私が、私の手であの男の、津山の命を奪った。
それは理解している。
理解しているけれど、やはり罪悪感は——
微塵も湧いてはこなかった。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
