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「打たれた住人は皆軽傷だったようだ。ご苦労だったな。黒木上等兵」
「はい」
あの後私たちは津山の亡骸を抱えて鶴見中尉の待つ兵舎へと戻った。
「しかし、なぜ尾形だけボロボロなのかね」
『……』
尾形と宇佐美は何も言おうとはしない。
仕方ないなぁ。
「それは、宇佐美にやられたんですよ」
「ん？宇佐美に？」
「私が津山を捕らえに向かう間、こいつらは喧嘩をしていまして。無事に捕らえられたのは私一人の働きのお陰ですよ」
私は包み隠さず、全てを鶴見中尉に告げた。
「全く。お前たちはいつもこれだ。何度も注意しているだろう」
「はぁっ申し訳ありません！」
「……」
宇佐美は興奮気味に謝罪を、尾形は黙ったまま虚空を見つめていた。
仕事をしない方が悪いのだ。
「で、その男はどうするんです」
私は津山の死体を指して言った。
「うん、まずは刺青を拝見しようか」
そう言って、「宇佐美」と指示を飛ばした。脱がせろということだ。
「はい！」と覇気のある返事を返すと、宇佐美は手際よく津山の上半身を晒していく。
「ほぅ、これは見事だ」
鶴見中尉が感嘆の声を漏らした。
露になった刺青は直線と曲線を交差させた作りになっており、所々に漢字が一字づつ刻まれていた。
確かに見事だ。
……否、待て、これって、
「っ、おい！」
「え、どうした？」
後ろからは尾形の驚きの声が、すぐ側からは宇佐美の疑問の声が聞こえてきた。
無理も無い。
私が血相を変えて、津山の元へと駆け寄り、宇佐美からその身を剥ぎ取ったのだから。
だが、今はそんな事を気にする余裕などなかった。
私は冷たくなった津山の腹部へ真っ直ぐに伸びる刺青の境目に指を沿わせた。
どうやら、のっぺら坊というのはとんだ冷酷非道な奴らしい。完全に私たちの部類の人間だ。
「どうした、黒木」
いつの間にか腰を上げ、私たちの近くへと歩み寄って来ていた鶴見中尉から、冷静な声が掛けられる。
その顔には胡散臭い笑みが貼り付けられていた。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
