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しばらくして、博文の瞳から光が消えた。
死んだのだ。
「あぁ、可哀想に。辛かったな。ほら、おいで」
そう言って鶴見は両腕を広げ、近づいてくる。
「来るな」
すると、鶴見はピタリと動きを停めた。
「私は、あの子を殺したこの男が許せない」
その声は、自分でも驚く程に淡々としていて、自分で自分のことを不気味だと思ったくらいだった。
「そして、それを命じたアンタのことも」
鶴見の目が、怪しく光った気がした。
「……どうせ殺すのなら、どうして私も一緒に殺してくれなかったんだ。あの子のいない世界で、生きている意味なんてない」
そうだ。でも、
「私は怖がりなんだ。死ぬのは怖い。けれど、あの子のいない世界を一人生きていくことも同じくらい怖いんだ。……私は、」
鶴見の首筋に短刀の刃を向ける。
このまま刀を振り抜けば、この男は死ぬ。
ノチウの復習が果たせる。
でも、
「私はアンタが憎くてたまらない。アンタのことを殺したい。
でも、
アンタのことを殺したら、
私はきっと、
もう死ねない」
背後から、銃を構える音がした。
涙が溢れ、私の頬を伝っていく。
「私は、どうしたらいいんだ？」
鶴見は何も答えはしない。
重い沈黙がその場を包んだ。
「銃を下ろせ」
鶴見の声と共に、今度は銃を下ろす音が聞こえた。
「黒木A」
鶴見が私の名を呼んだ。
その声は、無駄に優しいものだった。
「第七師団に入りなさい」
「は、だから、私は女だし、まだ、」
「言ったはずだ。性別や、年齢など関係は無いと」
鶴見は真っ直ぐに私の顔を見る。
「勝負をしよう」
「……勝負？」
「君は私の元で働くんだ。そして、君が私を殺せたのなら君の勝ち。君が自分で自分を殺せたのなら私の勝ちだ。どうかね？」
そう言って笑う鶴見。
私はゆっくりと刀を下ろす。
私が今ここで何をしようが、
あの子の鈴の音が私に届くことはもう、
二度とない。
なら、
「……分かった。私は貴方について行きます。けれど、私はあなたが嫌いだし、負けるのも嫌いだ。必ず殺してみせますよ」
「楽しみだ」
この時の私は、きっと相当参っていたのだろう。
鶴見中尉がここまでの流れを全て読んだ上でこんな芝居をうっているのだと分かっているにも関わらず、
この馬鹿げた勝負を受けてしまったのだから。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
