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私は母が嫌いだった。
たまに父が家に帰ってきた時、父は私を殴る。けれど、母のことは殴らなかった。
母は私が父に殴られ、蹴られするのを見ていた。止めるでもなく、父と共謀するでもなく、ただただずっと、その瞳に私の姿を焼き付けていた。
父が私に暴力を振るうのは、軍での生活で溜まった苛立ちを鎮めるため。
怒りが鎮まると、父は私の元を離れていき、今度は母へ詰め寄る。
けれど、母は怯えた表情を浮かべたことなど一度も無かった。
それどころか、母は頬を薄桃色に染め、父が自分を求めてくれることに優越感を抱いていたようだった。
私の父と母の愛情はとてつもなく歪んだものだった。
二人はとても穢れていた。
吐き気がする程に。
この世に数多いる悪人すらも、清く見えてきてしまうほどに。
そんな生活が続き、私が十歳になる年の五月に、第七師団が発足。その次の年には、私の父も第七師団の所属になった。
それから今までの生活に少し変化があった。
父が毎日のように家へ帰ってくるようになったのだ。私は毎日のように父から暴行を受けることとなった。
けれど、その内容も目的も前とは少し変わっていた。
内容は暴行というよりも、修行のような形へと変化した。
それでも多くの怪我をしたし、辛かった事に変わりは無いのだが。
目的は、詳しくは分からなかった。
ただ「強くなれ、強くなってあの方の役に立て」と言われながら木刀を振り下ろされた。何度も何度も。
そして、変わったことはもう一つ。
父が母に見向きもしなくなったのだ。母が話しかけても、父は相手にしなかった。
せっかく毎日のように焦がれる相手が自身の元へ来てくれるようになったというのにその目的は、自身ではなく、娘の私。
母は私を殴る父の前に割って立った。
「私も、私も殴って？どんなことにだって耐えるわ。だから、もう一度、私を見て？」
泣きながら、しかし笑いながら父に訴えかけるその姿は、
あまりにも醜かった。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
