もう帰りたい ページ43
『....ッハ』
そうして意識を取り戻したときには既に電車の中で揺られていた。
手首には未だワンスモアに繋がれたままである。
車内表示器に目をやれば、次は杜王町と書いてある...途中で降りて逃げるとか、そんなことも構わないらしい。
...段々駅が見えてくる。
ワンスモアは私を急かすように手を引っ張った。
(降りなきゃいけないのか...)
重い足取りでも何とか、人の流れと共にホームに向かった。
『帰ってきてしまった...』
改札を通り、目に前に広がる街並みを眺める。
流石に見慣れた景色だけあって、安心感は凄かった。
と、同時に嫌な考えばかり過る。
そんな私が見えないとでもいうように強引にリボンで引っ張られる。
『ま、待ってよ...！』
抗おうとするとダメージが自分にも返ってくる、手首が脱臼しそうだ。
(あ、これ絶対無理だ)
もう諦めてついていくしかない...何をしても止まる様子のないこの子を見て悟った。
しかしだ。
久しぶりに歩く町はなんだか新鮮味がある、数か月違う所にいただけでも人は変わってしまうんだなぁ〜...
そうして街並みに見とれていると不意にワンスモアは止まった。
『なっ、なんでここ...！』
表札を見て思わず叫んだ。
いや、見なくても多分叫んでいた、長い間ここで生活していたのだから。
だってここは今一番会いたくない人の家なのだから。
そうして一人項垂れている横で、私のキーケースから勝手にカギを取り出し、ワンスモアは家に入っていく。
勿論繋がれているから私も入るしかない。
『えっ』
家の中の景色に少し違和感を覚えた。
気になるレベルではないものの、前に私がいたときより散らかっているのだ。
確かに掃除とか洗濯ものとかは私が肩代わりしていたとは言え、元々家事のできる人だったから少し疑問に思った。
...少し片づけておこう。
と、机の上の紙を取ってワンスモアが何かを書いている。
＿サイコメトリーしてみて。
『でも...』
私は否定気味だった。
サイコメトリーは得たい情報を取捨選択して見れる訳では無いのだ。
＿良いから！ これも思い出すための一歩だよ！
ベールの下で子供特有のきらきらした目をしているような気がする、多分いくら否定したって意見は翻らないだろう。
色々諦めた私は袖から数本リボンをひゅるると出し、とりあえず近くにあった物から見てみることにした。
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作者名：むぎのくろた | 作成日時：2021年12月27日 2時
