監視の目 ページ5
『食器洗った。掃除機かけた。洗濯物干した...よし、今のうちに買い出し行ってこよう』
やる気の高まっているうちにやっておかなければ。なまけ癖が付くと悪い。
朝が弱いから朝食だけは作って貰っている。
夜ご飯は私が担当なんだが、いつものことながら献立が出てこない。
『とりあえず家を出よう』
特に何も考えず財布だけもって出掛けることにした。
・
『あ〜〜...何も思いつかない』
本当に何も出てこない、今日はいつもより深刻だ。肉か魚かすら決まらない。
献立にフル稼働させた脳を休めるためにと、目についた古本屋に吸い込まれるように入っていった。
本は当然、新品の方がいいのは明確だ。
でも私はこの匂いとか、日に焼けて色あせた感じが大好きなんだ。だからと言って買う気も無いが。
ともかく、人の手を渡り歩いてきた本は纏っている雰囲気から違ってくるものだ。
『...？』
...誰かに見られてる？なんだか気味が悪いな。
ジトッとした視線に、手に取っていた本を置いて店を出ようとした、んだが。
...がっつり目あってる。
『な、なにかご用でしょうか？』
「ああ、すまないね。無粋なことを聞くが...いや、何でもない」
『？ はい』
結局、文句のひとつも言えぬまま店を出た。
そう言えばあの人どこかで...
『あ！ 思い出した。ピンクダークの少年の...』
漫画家って変な人が多いのかな。
折角だしサインの一つもねだれば良かった。
『そうだ今日ピーマンの肉詰めにしよう』
何事も無かったかのようにカメユーデパートに入った。
・
『ってことがあって』
「ふうん」
ご飯を口に運びながら今日の古本屋でのことを話した。
彼の表情を見る限り美味しくできているみたいだ。
「おかしな人もいたものだね」
思わず箸の手を止め、少し引き気味に彼を見る。
「...言いたいことはわかるよ」
『なんだ、てっきりわかってないのかと』
「君は本当に...一言余計だよ」
と、少し不機嫌にぼやいた。
「というかわかっていないのは君だろう？ 今日の朝だって学生にカイロ渡したときどうやった？」
『え、普通に手渡ししたけど』
すると溜息を吐きながら、呆れたように目頭をおさえた。
「無自覚が一番悪質だな...いいかい？ 簡単にこんなことしちゃだめだよ」
『うん...』
仗助と同じこと言ってるし、そう言えばなんでカイロのこと知ってたんだろ？
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作者名：むぎのくろた | 作成日時：2021年12月27日 2時
