夢に見た世界 (ページ37)

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記憶の貴方はいずこ？ページ37

「本当は生き別れの弟か何かがいるのかなって思うことがあるんです」

「車に轢かれかけて貴方に助けられたとき、走馬灯で知らない子の頭を撫でてるところが見えて...」

と、いきなりそんなことを言われる。

思ってもみない話に頭が働かなかった。

「...承太郎さん？大丈夫ですか？」

暫く呆然としてしまったのを心配してか、少し不安そうな顔をしていた。

『あ、ああ。少しな』

そう言うと彼女の左目が少し濁った。

こいつは気づいていないみたいだが、顔に表情が出にくい分、左目にそう言うのが全部出てくる。

"昔から"変に気を遣いすぎる所があるから、今回も考えすぎで罪悪感を感じてしまっているんだろう。

『君が考えているほど深刻な話じゃあない。...だから、そんな顔するな』

「そうですか...」

フォローを入れてはみたが、それでもまだしょんぼりしていた。

『それより、その弟の話。それを理由にしてみたらどうだ』

「どういうことですか？」

眉を潜めて話に身を乗り出す。

『弟を思い出す。そのためにスタンドを使うとかな』

うぅ...と低く唸り声をあげて考え込んでいる。

「そりゃあ、本当にいるんだったら思い出して、会いに行きたいですけど...生きているかなんてわからないですし」

少し悲しそうに眉を吊り下げて呟いた。

絵本作家の一件で、思い出すことがすべて良いことではないと思ったのだろう。

こちらとしては思い出してもらうに越したことはないんだがな...

『まあ、どうするかは君次第だが』

あまり踏み込みすぎても、考えすぎるこいつはむしろ怪しがりそうだし、このくらいに留めておこうか。

「考えてみます」

思いつめた一言で今日の問診は締めくくられ、残ったのは冷めきったコーヒー二杯だった。

・

夜になり、ベットの中で存在するかどうかも怪しい自分の弟について考えた。

正直私が生きているうちに弟ができて、世話をして、なんてこと起きていない。

そもそも早いうちに父親が死んでしまっているんだから弟が出来ようもない。

『でも...』

あの、たった一瞬見えた記憶を反芻するだけで、右手がじんわりと温もっていくような気がしてしまうのだ。

『夢のなかで会えたりしないかな』

そんなわけないだろ、と乾いた笑いをこぼしながら瞳を閉じた。