また歩き出す ページ35
あれから暫く経ち、私はまた暇つぶし用の本を買いに来た。
本屋の一番前に会った絵本は無くなっていた。
(やめちゃったのかな...)
少し寂しかった。
(長持ちするように分厚めの本にしとこう)
そうして店内を探していたとき、ふと目に留まったのだ。
＿＿＿幸野 九の文字が。
『！』
すぐに手に取る。
タイトルも"おかあさん"のまま、ただ違うのは、その中身だ。
優しいおかあさんと、キュウという男の子のお話になっている。
『...よかった』
あの人は私が思っているよりずっと強い人だった。
「その本、良いでしょう？」
と、後ろから声をかけられる。
「いきなり話しかけてしまってごめんね、僕はここの店長をしてるんだ。君は前にもその人の絵本を買ってくれたよね」
『あ、レジ打ちしてた...』
随分垢抜けてしまっていて気が付かなかった。
同じ人とは思えないほど見違えている。
「その本はね、ここらに住んでる人が自分から持ち込んできたんだよ。良かったら買って行ってね」
『はい、...あの、前より明るくなられましたよね』
どうしても気になって聞いてみる。
「あ、あはは。わかるかい。実は、出て行った妻が帰って来てね」
「ただいまー！」
と、店内に大きな子供の声が響き渡る。
「おお〜！ お帰り、あきら。美紀」
あきらと呼ばれた子は母親と思わしき人と手を繋いでいる。
「あ！」
と、その手を放してこっちに走ってきた。
「お姉さんこの前の人だよね！ また来てくれてうれしいな」
「なんだ、知り合いか？」
「うん！ この前は上着ありがとう！ 今持ってくるから」
『ま、待って！』
と、走ろうとするのを止める。
「どうしたの？」
『上着は上げるって言ったでしょう？ それより、お母さん帰ってきたのね』
「うん！」
少しためらいながら口を開く。
『今、幸せ？』
そう聞くとその子はためらわずに言い放った。
「しあわせだよ！」
『そう...ならいいの』
「あ、そうだ待っててね」
『？』
そう言って中に入っていってしまう。
戻ってくると、一冊本を私に差し出した。
「この絵本、あのお兄さんがくれたの。でね、お姉さんがきたら渡してって、だから」
その絵本のタイトルにこう書いてあった。
"リスタート"、と。
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作者名：むぎのくろた | 作成日時：2021年12月27日 2時
