夢に見た世界 (ページ34)

今日:8 hit、昨日:3 hit、合計:9,455 hit

ただしい行いとはページ34

『大丈夫ですか』

「ああ...なんでかわからないが」

状況を理解しきれていないようで、頭を押さえて唸っている。

『聞きたいことがあるんです』

「あ？」

嫌な顔はしているものの、さっき書き込んだからか拒みはしないみたいだ...凄いな。

『母親のこと、嫌いですか』

目を大きく見開いて私を見る。

フッと笑い、口を開くとこんな言葉を発したのだ。

「思い出したいんだ」

「ずっと怖かった訳じゃあない。でももう俺にはわからない...本当の母さんが」

苦しそうにぽつりぽつりと本音をこぼす。

『じゃあ見に行こう』

「...？」

つぅっと袖からリボンが伸びる。

それは慈母のように目を優しく覆い、じんわりと体温を伝えた。

『私は知ってる、貴方がなんで絵を描くのか、母親が"素敵だね"って褒めてくれたから。なんでペンネームじゃあなくて本名を使っているのか、母親がくれたから』

リボンの裏で、彼が何を見ているのかわからない...いや、こういうのは彼だけが知っていればいいのだ。

・

「俺はこの先、どうすればいい」

そう言った目には後悔の念が浮かんでいた。

優しい母を見てしまって、殺したことに疑問を抱いてしまったようだ...

「このまま生きていける自信が、俺には無い......」

そうして俯いて、背中を丸めていた。

『＿９、貴方の名前。どんな意味があるか知ってますか？』

落ち着いた声色でそう問いかける。

「...なんだろうな。終わりとか、最後とか、そんなもんじゃあないか」

『リスタート』

九さんの手を優しく包む。

『確かに９は最後の数字です。だからこそ、始まりがある。貴方のやったことは消えないけど、これからの貴方も消えないんです、貴方に強い意志があれば』

『貴方の絵、私は好きだから。＿無責任な事ばかりでごめんなさい』

するっと手が離れていく。

何も残っていない部屋にぽつんと一人座り込む彼が、変わることを信じて私はここを去った。

・

『お待たせしました』

「気は済んだか？」

『う～ん...ちょっとよくわからないです。これでよかったのかなぁって』

余計なおせっかいであの人はもしかしたら死んでしまうのかも知れない、そう思っていたからだ。

「力を使うとは、そう言うことだ」

『そうですよね』

その一言が重くのしかかる。

夕日に照らされた背中がどうしようもなく汗ばんでいた。