お話ししようね ページ27
『承太郎さん、いらっしゃいますか』
と、３回ほどドアをノックする。
中から返事は無い。
(聞こえなかったのかな)
『いらっしゃいますか！』
と、語彙を強くしてみた。
「なんだ？」
『！！』
後ろのしかも上の方から声がして肩がびくっと震えてしまった。
『はあ...心臓によくありません。その身長縮まりませんか』
「こういう血筋なんだ、慣れてもらうしかない。で、何をしにきたんだ」
そうだったと、我に返る。
『昨日写真落としましたよね、ほらこれ』
と、ポケットから取り出した。
「助かった。わざわざすまないな」
写真を手に取り、内ポケットにしまう。
「...この写真、見覚えがあったりしなかったか」
『？ 特に。でも変に惹かれる写真ですよね』
「そうか」
帽子のつばをつまみながら、口元を緩めていた。
少し嬉しそうに、そして悲しさを打ち消すように無理に笑っている風にも見える。
『...貴方って、一人で背負い込む方でしょう？』
「？」
なんの話だと、ピンとこない表情をする。
『何を抱えているかは、私には推し量れませんけど...お話くらいはできますから』
それを聞くと何かを慕うように、目の奥に何かを映しながら眉を下げて笑った。
「それじゃあ、暇を持て余したときにでも頼もうか」
『では、それまでに面白い話を思い出しておきますね』
ほんのりとそよ風のような微笑みを互いに浮かべた。
・
今日も薬を飲んで夢の中へ。
昨日とは違って、明所と暗所で境目が出来ていた。
私が立っているのは明るい方だ。
「こんばんわ」
『また貴方ね』
「またって何だい？ ぼくはこんなに君が好きなのに」
『冗談はよしなさい』
「...つまんな」
暗闇の中から呆れた声が聞こえる。
『貴方、名前は無いの？』
「無いよ、だからつけてほしいな」
『いやだ』
「なんだよもォー」
とは言いつつある程度予想はしていそうな声だった。
「ねね、あの承太郎って人どう思う？」
『なんで？』
「なんでも」
興味津々の声に押されてしまう。
本当に子供みたいだ。
『なんだろう...少し気のかかる子かな』
「へ〜！」
面白そうに声を弾ませる。
「...彼が起点になってくれると良いね」
『なに？』
「もうすぐ朝だよって言ったの、ほら、目が覚めるよ」
指がパチンと鳴らされ、瞼を開いた。
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作者名：むぎのくろた | 作成日時：2021年12月27日 2時
