既に手遅れ ページ11
本当に何も思いつかなくてドゥ・マゴに来てしまった。
いや、ここに来れば誰か知り合いに会えるかもと思ってしまったのかもしれない。
カウンター席でコーヒーをかき混ぜる。今日は甘いのが飲みたい気分だった。
「隣いいか」
頭上から聞こえる声に顔を向ける。
日本人にしては随分と背丈が高く、見上げるだけでも首が痛かった。
『どうぞ』
それを聞くとコーヒーを一杯頼み、小難しそうな書類に目を通し始めた。
『お仕事ですか？』
折角隣に座っているんだしと思って、話しかけてみる。
「人を待っていてな、これは暇つぶしだ」
『そうだったんですね...』
横目で資料を見てみると、顔は見えないが...おそらく人の写真と、"スタンド"の文字。
...下手に反応しない方が身のためかもしれない。
いや、もう既に怪しまれているかも。
今日は店内がすいている。だと言うのにわざわざ私の隣を、しかも人を待っているのにカウンター席を選ぶ。
待ち合わせをしているのならテーブル席を選ぶものでしょう？
...考えすぎかも。見ず知らずの誰かが私のことをしりたいとか、そんなわけないし。自意識過剰にもほどがある。
「おっと」
と、隣の人がペンかなにかを手から滑り落とす。
「すまない、取ってくれないか。君の座っている椅子の下なんだが」
そう言って私の右足に下あたりをさした。椅子を下りてしゃがまないと拾えない位置だ。
『...はい、どうぞ』
「ありがとう」
かがんだまま拾ったものを渡そうとしたその時、フッと彼の後ろにスタンドが現れた。
『！』
一瞬体が強張る。
その一瞬を見逃さなかったとでもいうように、その人は少し口角を上げた。
『用があるので私はこれで失礼しますね』
冷めたコーヒーを残してその場を去る。
ただの自意識過剰...ただの自意識過剰...何度も自分に言い聞かせてみるがどうもあの目が忘れられない。
獲物を捕らえた蛇のようなあの目が。
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作者名：むぎのくろた | 作成日時：2021年12月27日 2時
