黒猫が横切って啼いた。

少年と桜の話−５ ページ22

そのあと２人は写真を撮りまくり、満足した様子になって帰ろうとしていた

…ん？
つーかコレ、僕来る必要性あった？
なかったよね？
しかも、２人が来てやったのが写真撮るだけって…


…はぁ、もういいか…

僕は考えるのも馬鹿馬鹿しくなり、
おとなしく、ここに来た時のように僕は２人の後ろをついて下山する

…いや、しようとした



しかし、


「ねぇ、待って」

澄んだ声が僕の足を止めた

振り向くと、万年桜の木の下に薄紅色の服を着た少女がいた

あれ？
さっきまであんな子いたっけ…？

訝しく思いながらも、僕は答える

「なんですか？」

僕の問いになぜか少女は安心したように、にっこりと微笑むと手招きをする

先に言っている２人のことが気になったが、僕は少女のもとへ行った

「…っ」

近づいてみてわかったが、少女は目を見張るほど綺麗だった
そばに佇んでいる桜が少女がいるとただの背景になってしまうほどに

僕が近づくと、少女が申し訳なさそうな顔になった

「ごめんなさいね
　初対面なのに、突然呼び止めてしまって」
「い、いや、別に…
　大丈夫です、けど」

僕がつっかえながらも言うと、少女は花が咲いたようにパッと笑顔になった

「そう？それはありがとう！」

不意の笑顔に、顔が少し赤くなったのを自覚しながら、聞きたかった事を聞く

「あの、それで僕に何の用ですか？」
「あなたは、この木のことを桜じゃないってあの２人に話していたでしょう？」
「そう、ですけど、それが何か…？」

彼女の言いたい事がわからない

「ここに来る人は皆、この木が桜だと思い、
　珍しがり、地面を掘り起こしたりしていて…
　でも、この木は、桜じゃないんです
　だから、この木を桜じゃないって言ってくれて嬉しかったのよ」
「は、はぁ…」
「あなたなら、この木を桜じゃなく見て、本当の美しさに気づくと思って…」
「ええと、つまり、それで僕に声をかけたんですか？」
「…えぇ、迷惑、だった？」
「そ、そんなことはないです」

うわ、そんな顔されたら、迷惑なんていえないんだけど…
いや実際、迷惑ではなかったんだけどね



最後に彼女は、こう言った

「私は『サクラ』って言うの
　また、来てくれると嬉しいんだけど…」

僕は照れからか、顔をそらしつつ答える

「じゃぁ、また来ます」

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