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「日向さんにはマネージャー、断られたよ」
西谷さんが清水先輩に詰め寄ると、悲しそうな顔をしてそう言った。西谷さんはいつもなら、清水先輩と話せたなんて馬鹿騒ぎするのに「……そうっすか」と静かに一言放って練習へ戻っていく。たぶんワケを知っているのだろう、と思った。
彼女がマネージャーを断ったワケ。きっと深い理由は無いのだと思う。でも、彼女にとって中学時代の部活動がトラウマでそれをずっと引き摺っているのだ。その根本である信頼という言葉が、信じられないからこそ。
さっきの言葉が脳裏に焼き付く。なんであんな、憂いを帯びた顔で必死になって……彼女は笑っていられたのだろう。僕には分からなかった。
でも彼女自身が決めたことに僕が口を挟む訳にも行かないし、いつも通りでいた方が気が楽だろう。……というか、彼女はきっと気にしない。
べたりと貼り付いたあの顔を見て、魅せられてしまった僕も僕だ。一瞬でも引き留めてしまいたいと思った僕の負け。
張り付く髪の毛と汗が鬱陶しい。
「ツッキー……」
「なに山口」
山口が浮かない顔で、こちらの機嫌を窺うように見た。
彼女がいない。あの山口の台詞が思い出される。
僕は確かに彼女にマネージャーになって欲しかった。気付きたくは無かったけれど、そういうことだろう。
この離れない靄と、妙な怒りは、
「……平気?」
上目で見られて、息が詰まる。
ここで、平気じゃない、と言えたらどんだけ楽なことだろう。けれど言っては駄目だと分かっていた。自分の心の中に留めておくことだけが必死なのは自分だけの秘密にしていたい。
「……別に、あいつが決めたことなんだし」
「だっ……だよね……でも日向さんに入って欲しかったな」
「……」
呑気な一言で周りの声がやっと聞こえるようになった。
先程バレー部の一員となった谷地さんとチビがわいわいと騒いでいるのを背景に、部活開始の合図がもう間もなくだろうと感じる。谷地さんの小さい背中の黒いジャージに何も言えなかった。
隣にあいつが、なんて柄にもなく願ってしまいそうだと気付いた。
きっとみんな一人のマネ候補だった存在を忘れていく。時間がそれを許してしまう。
だから、僕がこんなにも執着してしまう理由にも既に分かっていた。
"私、もう辞めたから"
「……自分勝手なんだよ」
「ツッキーなんか言った?」
「なんでもない」
日向Aに恋をしたから。
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辛 - 日本語化ちょいちょい変。てにをはもおかしい。無理に難しい言い回しわ使わない方がいいと思う。 (9月11日 12時) (レス) @page26 id: 5015934a65 (このIDを非表示/違反報告)
む - めちゃくちゃ良かったです。他の作者様だと冷たかったり口が悪い月島が多いですが、このお話の月島は冷た過ぎず、他人に干渉し過ぎず距離感がちょうど良かったです。とても上手に表現していると思います。告白も月島からなのが良かったです。 (2021年4月18日 4時) (レス) id: be1d7978bd (このIDを非表示/違反報告)
KOMORE(プロフ) - むさん» 本当に長らくお待たせしました……!皆の感情にどう現実味を出すかたくさん考えていたのでそうやって受け取って貰い感無量です。全文私にとって嬉しく糧になるお言葉です。読んで下さり本当にありがとうございました! (2021年2月10日 10時) (レス) id: d075f9ab0b (このIDを非表示/違反報告)
む - 更新楽しみにしていました! 皆の心の動きがとてもリアルで、ツッキーはこんな子とこういう恋愛をするのだろうな、と胸にストンと落ちました。等身大の高校生なこの作品がとても好きです。 完結おめでとうございます! (2021年2月9日 2時) (レス) id: 727df39cb7 (このIDを非表示/違反報告)
KOMORE(プロフ) - なづなさん» コメントありがとうございます!テーマとしている高校生感を感じ取って下さりとても嬉しいです……!ゆっくりですが完結までついてきて頂けると有難いです。応援ありがとうございます! (2020年5月11日 21時) (レス) id: d075f9ab0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:KOMORE | 作成日時:2020年1月14日 22時