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Aさんは、頷いて俺の首に腕を回す。
頷く直前、一瞬迷った表情をした様にも思えたど、見て見ぬふりをした。
とにかく今は時間が無い。
俺はだいぶ焦っていた。
あと2日だけの関係。
俺が日本に戻ったら、何事も無かったかのようにお互い日常に戻る。
そしたら俺の事なんか忘れたって構わないから。
そうとすら思っていた。
「Aって呼んでいい?
俺の事も、祐也って名前で呼んで?」
『祐也…』
「A。好きだよ」
再び長く深いキスに酔いしれる。
一度離れたところでAが熱っぽい瞳で俺を見てくるから、堪らず服の中に手を滑らせた。
だけど、
『ちょっと待って。シャワー浴びさせて』
服の上から、Aの手が俺の手を捕えた。
正直そんなのどうでもいいって思ったけど、ガツガツし過ぎもカッコわりーかと、素直にソファから降りた。
「俺も、借りていい?」
ホテルでシャワーを浴びて来てたけど、ご飯食べて酒飲んで、今ちょっと色々あって、だいぶ汗ばんでいた。
『じゃあ、手越くんがお先にどうぞ』
そう言って、バスルームに俺を案内してタオルとバスローブを貸してくれた。
祐也って呼んでって言ったのに。
…まあいいや。それはまた後で。
Aが脱衣室から出ていくと、手早く服を脱いでシャワーを浴びた。
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『じゃあ、行ってくるね。
良かったら、そっちで待ってて?』
リビングに戻ると、Aは俺を見てすぐに目を逸らして、バスルームに行ってしまった。
残っていたペットボトルの水を飲み干して、Aが指差したドアを開ける。
リビングの半分ほどの小さな部屋には、シングルベッドが1つ置かれていた。
ベッドに入っとけってことだよな。
他には何も無いし。
電気は?
つけなくていいか。
月明かりとリビングから微かに漏れる明かりだけを頼りに、ベッドに潜り込んだ。
数分後、シャワーの音が止んで、ドライヤーの音が聞こえてくる。
早く乾かし終わらないだろうかと、一人ベッドの中でソワソワしていた。
やがて、ドライヤーの音が止まってリビングから足音が聞こえてきたけど、Aはなかなかこっちの部屋に入ってこない。
「A?」
待ちきれなくなって名前を呼ぶと
『うん。…今行くね?』
リビングの明かりが消えて、ドアが開いた。
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作者名:まり | 作成日時:2019年10月15日 1時