命にキスを 〜アウトローな未来のお話〜

四十 ページ40

ロバートが両手にティーカップを持ち、席に戻って来た。私は深呼吸を続けて気を落ち着かせながらもソファに腰を降ろし、テーブルに置かれたティーを飲んだ。

　ロバートは灰皿においた煙草をまたふかし始め、しばらくしてからティーを一口すすった。
　お互いに対峙している状況だった。暗黙が続いた。

　私はポケットから新しい煙草を一本取り出して、ライターで火をつけた。無造作にポケットに戻し、あちらこちらに視線を泳がせていた。
　私のタバコは少量のメンソール入りで、スースーする。ダージリンティーなのだろうか、少々の甘味と高級感のある風味がある。スースーした安っぽい口にはあまり合っていなかった。


　まるで、子供染みた世界で無理に維持を張っている馬鹿な大人のようだ。可愛気もない、こんなことは犬も喰わないだろう。ただし、闇に潜むコウモリは喰うネタだ。
　くだらない事を考え、煙草をふかし続けた。


「おい、お前、死ぬのか？」
「分からねえ。アズの気持ちは変わらないそうだ」
「アイツだってクソだが人間だ。説得しろ」
「……バイクレースやってる人間が、説得しろかよ。笑えるな」
「冗談かましてる場合じゃねーよ。お前しか命の救世主になれねーんだ。頑張れよ」

「俺の存在に乾杯」

　何を思ったか、私の置いてあるティーカップと自分のティーカップをかちりと鳴らした。ロバートはその手で口元に持っていき、優雅にすする。

「キャロルと私が手を組んでワクチンを作ろうか。決行日はいつって決まってるのか？」
「五日以内に答えを出せとの事だ。多分、今月中には」
「……マックスウイルスのサンプルがねーからな。情報屋に頼んだりしてたら、早くてもワクチン完成は一ヵ月はかかるぞ」
「今月はあと二週間だぞ」
「急ぐしかないな」


　私は煙草やティーを片付けて立ち上がった。ロバートのポケットにあるアイフォンスターを取り、情報屋と電話を繋げる。ロバートは私の行動をとめようと手を伸ばしたが、振り払って冷たい視線を送った。

　情報屋のレニという女に繋がり、誰も私が出ると思ってなかったから、ハイ、ロバートから一言目が始まった。キャロルとも疑って来たが否定した。
　マックスウイルスの情報を仕入れ、こっちが代わりに二十万ドルを払うことを約束した。

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