ア オ ウ 【オーバーキャストシリーズ】

35　みなとの両親 ページ36

明後日、居間にはみなと兄のお母さんの姿とお父さんの姿があった。


　座布団に深く腰を降ろし、膝を抱えた手がわずかに震えていた。



「ごめんなさい」



　みなと兄のお母さんは座布団から降り、誠心誠意尽くせる限り頭を下げた。


　前には腕組みをして気難しい顔をしたみなと兄と、後ろに立つのは困った顔をしたお婆ちゃん。


　ついにバレたかという面持ちだった。



「黙っててごめんね、みなと。みなとを馬鹿にしようと思ってした事じゃないの」



　肩までのショートヘアが荒々しい息で不規則に揺れていた。


　お母さんの泣き声は家中に響いて、隣室で隠れていた私にも聞こえた。



「みなと。お母さんはね――、死産を過去に２回もしてるのよ。


　そういう体質なんだって助産師が言ってた。


　でも私は赤ちゃんがどうしても欲しくて、もう自分の腕がなくなっても、脚がなくなっても良いくらいに欲しかった。


　それでね、ある日お父さんが子供を連れてきてくれたのよ。


　まだ１ヶ月も経っていない子供をひとり。


　暗い所で見ると深海のような青色をした目だったから、海に関連する名前が良いと思って、みなとにしたの。


　それが貴方……」



　みなと兄の目は不思議だった。


　確かに夜、みなと兄の目をみると外国人のような青色の目をしている。



「お父さんはみなとを私に預ける時にこう言ってた。


　その子はアメリカ人の子供だって。


　第二次世界大戦の時に帰国出来なくなったアメリカ人が日本で家庭を作って、それから出来た子供なんだって。


　でも、その日本人のお母さんは病で死んでしまって、アメリカ人のお父さんは母国の両親に居場所を知られてしまって、子供を捨てて帰って来いって言われたらしいの。


　そうしないのであれば、強制的にでも銃で子供の命を取るって。


　それで引き取った子供。


　そのアメリカ人は母国に帰って他の家庭ができたってお父さんから聞いてる……」



　説明を全て聞き終えたみなと兄は顔を隠すように項垂れ、



「そ、か……」



　と聞こえるか聞こえないかのボリュームでそう言った。

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