ア オ ウ 【オーバーキャストシリーズ】

26　sideみなと　※忙しい方は飛ばして下さい ページ27

朝比奈が俺を連れていった場所は下駄箱からそう遠くない、もう誰にも使われていない旧クラブハウスだった。


　遠くに陸上部であろう部員が話しているのが聞こえる。学校は五月蠅い。


「ごめんね。呼び出しちゃって」


「別に……。話したいことってなに」


「あの……」


　掠れた声の先にある、朝比奈の口から出ない言葉。


　両手をせわしなく合わせ、恥ずかしそうに俯く所を見て直観してしまった。


「本当に言い辛いんだけど、みなとくんって彼女いないんだよね？」


「は？」


「あ、いや！ からかいたいとかそんな気持ちじゃないんだよっ。


　ただの確認っていうか……ね」


　俺と目を合わせず、早口でそんな事を言い出した。


　「確かに彼女はいないけど」とだけ言うと、朝比奈は確認だからと慌てて反芻した。


「あのね、私と付き合ってくれない？」


　３年生に進級した時にも、そんな告白の仕方だったように思う。


　俺はあの時どう振ったか思い出せなくて下手に口を出さなかった。


「私と高跳びで勝負しない？」


「……高跳び？」


「みなとくんが勝ったら、私もうみなとくんに言い寄ったりしない。でも、私が高跳びでみなとくんより跳べたら……、




　私が勝ったら付き合ってほしい。




　……駄目かな？」



　朝比奈のこういう所が意味不明なのだ。


　どうして俺をそこまで求めるのか、訳が分からない。


　何を理由に振ったかは忘れたが、確かに俺は朝比奈を突き放したはずだ。


　しかも「諦められる」のか「諦められない」のかよく分からん。


　俺は、「何を言いたいの？」っていう眼で朝比奈をじろりと見据えた。


　だが朝比奈には伝わらず、余計にあたふたしている。


「私、小中高と９年間高跳びしてきたから同じバーの高さで良いよ！ みなとくんは部活もしてないし陸上もやってこなかった訳だから……」


「朝比奈？ お前、ちゃんと俺を諦められるの」


　この前の告白が個性的すぎるあまりに聞いてしまう。


　多分、朝比奈は高嶺の花が故に逆に恋愛をしてこなかったのだろう。


　朝比奈はアタフタするのを辞めて、黒目勝ちな瞳を俺に向けた。


「……分かった。じゃあ明後日また学校で」

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