ア オ ウ 【オーバーキャストシリーズ】

10　ひとみ先輩 ページ11

「え……、知ってるのってことは本当にあったってこと？」


　みなと兄は「あ」というような口の開き方をして、また前を向いて自転車をこぎだした。


　落ち込んでいるように頭をガックリと下げたみなと兄は、また私から遠い存在になった。


「じゃあ、ひとみ先輩に告白されたのを認めるってことで良いの？」


「ひとみとはさぁ、ただなんつーか――、うーん……」


　ひとみ先輩は陸上部の副部長をやっていて、全国大会の常連でもある。


　体育館で表彰される所か、積み上げられた表彰状の半分は彼女のものと言っても過言ではない。


　まさしく文武両道、この学校の入学試験も彼女が首位だったらしい。


「ひとみ先輩と同じクラスなの？」


「いや、違う。俺はＣ組だしアイツはＡ組。


　あえていうなら２年の運動会の時、学年対抗リレーで接点があったよ」


「……それだけ？」


「修学旅行でやった数学テストでペア組まされた」


「……それだけ？」


「くどいな！」


　みなと兄は自転車をウェーブさせて、過去と同じように私を振り落とそうとする。


「きゃっ」


「なんかさ、やたら見てくるなーとは思ったよ？ 成績いっつも俺の方が上だし、嫉妬心燃やしてても不思議じゃないよなーって思ってたくらいで」


「もういいってば！ それで、告白の結果は？」


「……振った」


「振った？ なんであんな美人振るの」


　茹で卵みたいに綺麗な肌してて、絹のようなストレートの黒髪に、墨みたいな古風な黒目はパッチリとしてモデルのよう――。


　着物が似合いそうな大和撫子で、清潔感が他の女の子より圧倒的に違う、ひとみ先輩。


「……もう、俺は一生独り身でいるって決めてんの」


「は？」


「もーこの話辞めようぜ。六花ももう質問すんな」


　みなと兄は意味深げなこと言ったまま、私の心のもやもやを取り除こうとはしてくれない。


　私はほっぺたをムッと膨らませたまま、「はぁい」と言った。

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