ア オ ウ 【オーバーキャストシリーズ】

39　御高覧、ありがとうございました ページ40

みなと兄は高校卒業後、「養子」という分類に正された。


　私は高校を卒業するまで「みなと兄」と呼んでいたけど、



「みなとでいい」



　と言われて、ドギマギしながらも、「みなと〜」に変えつつある。


　みなと……は、お婆ちゃん家の家業を予定通り継いだ。


　そうなると婚約者の私も畑と水田と牛のお世話を必然的に継ぐことになる。


　やっぱりみなと……は何でも器用にこなしていくので、私が足手纏いになっていたりする。



＊



　今はお爺ちゃん、お婆ちゃん、みなと、私の４人で仲良く暮らしている。


　みなとはお爺ちゃんをライバル意識しているようで、夜には小さなスケッチ大会が開かれる。


　お互いにあーだこーだ言う五月蠅い夜が私は好きだったりする。


　本当の家族みたいに見えるから。



「ふふっ」


「なんだよ」


「なんでもなーい」

　

　口をつぐんだみなと兄は幼い頃と何も変わっていないように見える。


　なにひとつ、変わっていない。


＊


　農業の仕事が板についてきた頃、みなとはアメリカに行きたいと言った。


　アメリカのお父さんと、私のお爺ちゃんはまだ密かに手紙を交換している仲らしく、記載されている住所を辿れば会えるかもという事だ。


　ただし、私はみなと曰く『ゲロ女』なので夫婦揃ってご挨拶というのは長い目で見た方が良いかもしれない――。



　みなとは初めてアメリカのお父さんに手紙を書いた。


　日本人の妻がいたので日本語が少々使えるのかもしれないが、高校時代の英和辞典を引っ張り出して何度も確認しながら書いていた。


　なに書いたの？、と質問しても教えてくれない。


　もしかしたら少し恥ずかしいことを書いていたのかもしれない。


＊


　数週間して返ってきたエアメールをみなとは大切そうに両手で握る。


　返信が来たことに目を輝かせている姿はまるで未知の世界を知った子供さながら。



「私にも見せてっ」


「後でな。ちょ、邪魔すんな！」



　腕によじ登り、エアメールを覗く。


　エアメールの最後に、大きな文字で『ア オ ウ』と書かれている。


　最愛の妻との間に出来た子供と再会できるなら――。


　部分部分を拾って訳すとそんな事が書いてあるらしい。


　みなと兄は『ア オ ウ』の３文字を大事そうに指でなぞった――。
　

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