ア オ ウ 【オーバーキャストシリーズ】

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午前中に夏休みの宿題をして、午後からはスケッチをする。


　安土ばーちゃんは縁側に座り、麦茶を飲みながら庭に出る私のことを見守ってくれていた。


「あぁ……」


　みなと兄が手直ししてくれた夾竹桃をみる。


　昨年と同じ所で育っているそれは、勿論記憶通りの色と形をしている。


　溜息のようなものが口からこぼれるのに時間はかからなかった。


　花弁を人差し指と親指でつまみ確認しると、薄くて硬くて――。


　しわしわになった頃に描いたので分からなかったが、広げてみると楕円形をしている。


　私の絵はなんとも不自然というか、何だこの花状態である。


「安土ばあ。みなと兄はこの庭よく来るの？」


「バイト終わったら、旦那と麦茶を飲みに来るくらいかなぁ」


　安土ばーちゃんは高くて猫をあやすような声をしていて個性的。


「ふーん……」


「でも、春子さんがお花を分けて欲しいっていう時もあってね、みなと君に持ってってもらう時もあるのよねぇ」


「え、私の家にある花瓶のお花って安土ばーちゃん所のだったの？」


「綺麗で良いでしょう」


　夾竹桃が呼んでいる気がして振りかえると、知らなかっただろと鼻を高くする小学生が頭の中に瞬時に現れた。とんでもないイメージである。


　私はその後にもう一度、夾竹桃のスケッチに再チャレンジした。


　何回も何回も。


　写真なんじゃないかって思う程、綺麗な絵を描きたかった。


　鉛筆削りで出たカスでゴミ箱の半分が埋まってしまうほど……。




　安土ばーちゃん家の鳩時計が４時を告げる。


　気付いたら私の腕が鉛筆でドロドロになっていてキョトンとする。


「六花、帰るぞ」


　愛しい重低音がして、後ろを向くと額の汗を拭うみなと兄が立っていた。


　オレンジに染まった世界はまるでオーブンのようで、みなと兄の丸焼きが出来るんじゃないかとふと思ってしまった。


＊


　日出麗山の麓にある駄菓子屋に小さな男の子が立っている。


　物静かなその瞳が自転車を捉え、通すがる私達を物珍しそうに見詰めた。


　流石商売人の男の子という感じで、愛想良くフリフリと左手を振ってくれている。


　私が弧を描くように大きく腕を振ると、駄菓子屋から出てきて両腕を振り返してくれる。


　小豆みたいなサイズになるまで続け、私は向き戻ってみなと兄に抱き付いた。


「あの子、大きくなったね」


「壮介っていうんだってさ」


「へぇ」

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