ア オ ウ 【オーバーキャストシリーズ】

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弁当を作ってもらえなかったんじゃなくて、今日はお昼までらしい。


　みなと兄が牛舎の横へ自転車を留めて帰って来る。


　今日は魚の煮物と冷奴。


　煮物はまたお婆ちゃんが失敗して焦げた味がしたけれど、冷奴は大豆の味が濃くて美味。


　醤油も薄口だし、生姜をたっぷり載せた分ツンとして刺激がある。


　お婆ちゃん家は小皿にそれぞれ盛り付けてあるのではなくて、大皿が中心に置かれている形。


　みなと兄との久し振りの食事は、減っていくスピードが上等。


　豆腐は崩さずに食べるし、煮魚も背中の部分を器用に平らげる……。


「みなと兄」


　私が洗ったお皿を渡し、タオルを持ったみなと兄がぼけーっとしながら受け取る。


「んー？」


　食べ終わり、気付けば皿洗いに取り掛かっている。


　何の悪気もなさそうな「んー？」が呑気で良いなと思う。


「私のスケッチブック、書き込んだのってみなと兄？」


「ああ、あのへったくそな絵？」


　ニー・バット。


「いって！」


「へったくそな絵、じゃないでしょ？ 何なの一体！」


「流石だっつってんだよ。あのクソジジイの孫なだけあるよなっ」


「はぁー!?」


　みなと兄のこういう所が無性に腹立たしいのである。


　顔を覗き込み「もっぺん言ってみろ」と喧嘩をふっかけようとした時、みなと兄がふにゃりと唇を緩めた。


「なんて顔してんだよ」


「え……？」


「冗談だって。あのじーさんより上手いから安心しろ」


　みなと兄のムッとした顔が、一瞬花が咲いたように温和な表情になる。


　ポンポン、と優しい音がしてみなと兄は私の前からいなくなる。


　身体がピタリと動かなくなった。


　鼓動が早鐘を打っている。無駄に意識しないようにってずっと思ってたのに。

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