ぜろ ページ1
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一切着崩さず、膝まで伸ばしてある長いスカートにきっちり第一ボタンまで締めた制服。
真っ黒なボブカットで目元を隠すほどの長さの前髪。
さらには分厚いメガネをかけていて、彼女の顔はなかなか見えるものではなかった。
学級委員長サマ。それは彼女につけられたあだ名のようなものであった。
実際は学級委員ではないが、彼女の真面目そうな地味な見た目からクラスメイトにつけられた、蔑称のようなものであった。
それは、おそらく彼女が関東から引っ越してきたことも関係しているのだろう。
彼女は元々東京に住んでいたが、高校入学時点で大阪に引っ越し、この学校にいる。
特にここは有名でもなんでもない地域の公立高校、“中学からの付き合い”が多いタイプの高校だった。
おかげさまで彼女は孤立し、直接的な嫌がらせは無いものの、クラスで浮いてるんだろうな、と言う雰囲気は
おそらく本物の馬鹿以外は感じ取れるほどのものだった。
「え、みてよ、学級委員サマ。スマホ使うんだね、てっきりまだガラケーだと思ってたんだけど」
「え、わかんないよ、老人用の初心者スマホじゃね？」
ギャハハ、と下品に響き渡る笑い声は、全て彼女に聞こえていた。
居心地が悪くなったのだろう、“学級委員サマ”は立ち上がり、教室から出ていった。
教室から彼女を追うように聞こえる笑い声は彼女の耳にかけすらしていない重い髪の毛が遮った。
彼女が向かった先は、屋上だった。
「立ち入り禁止」と書かれた紙の貼ってある、鍵の壊れた扉に手をかけ、錆で重くなったそれを開ける。
風が彼女の髪を揺らした。彼女は、前髪をかき上げた。
鬱陶しかった前髪と分厚い伊達メガネを外し、制服の第一ボタンを開け、スカートのポケットから取り出したのは
白い字で「short peace」と書かれた黒い箱と、ライターだった。
複数回カチッ、と鳴らした後、手慣れた手つきで細長いそれにほう、と火を付ける。
たちまち肺に広がるニコチンに落ち着いたのか、彼女は口を開いた。
『なぁにが学級委員サマ(笑)だよ、クソ芋の分際で人がやってる変装馬鹿にすんなカス』
もう一度煙を吸い、ふぅ、と白濁を青い空に吐き出す。
途端、
「…はえ〜、学級委員長サマでもタバコ、吸うんっすね」
『は、？』
クラスメイトの、声がした。
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作者名：洸 | 作成日時：2023年1月29日 2時
