愛を運ぼう【夏油傑】

…５ ページ38

 


 ぼんやりとした視界(しかい)が、徐々(じょじょ)にハッキリとして。

 寝てしまったのか、と枕元(まくらもと)にある置時計のボタンを押して、置時計の画面を光らせる。

(３時８分……)

 午後の３時を過ぎていた。窓(まど)の外から雨の音が聞こえる。

 身体(からだ)の調子は元に戻り、オレは起き上がって歩く。襖(ふすま)を開ける。


「……部屋に入らなかったのか」

 とテーブルのイスに座ってるソイツに呟(つぶや)けば、プライベートルームと言っていたからね、と答えるソイツ。

「身体は大丈夫かい？」

 オレは静かに頷(うなづ)いて台所に行く。


「ありがとな、焼きそば」

 そうお礼を口にすれば、いいえ。とソイツは微笑(ほほえ)んで。

 オレは焼きそばを大きなフライパンからよそって、レンジで温める。

 台所の水をマグカップに入れて寝起きの口を濯(ゆす)ぐ。

 マグカップにオレンジ100パーを入れて、温め終わった焼きそばの皿を箸(はし)を取ってからテーブルに持ってく。


「頂(いただ)きます」

「どうぞ」

 と、優しい声音でソイツは言う。

「味は変じゃなかった？」

「普通に焼きそば。凄(すご)く美味(おい)しいわけじゃないけど、普通に美味しいわ」

「そうか。それなら良かったよ」

 そう言って、ソイツは引き続き本に目を落とす。

 オレはゆっくりと焼きそばを頂いた。食べながらオレは口を開く。


「……２日の土曜からオレ盆(ぼん)帰りだから。来週は家にいない」

「……そういえば再(さ)来週はもうお盆の時期か」

「帰ってくんのは１７日日曜日な」

「しばらく会えないのは残念だね」

「全然」

「私はとても残念だよ？」

「あっそ」

 あいかわらず、冷たいな。浅上さんは。とソイツは口にする。

「ごちそうさま」

 オレは構(かま)わず皿を台所に持ってく。

「アンタ、傘とか持ってきてんの？」

「ああ、カッパを持ってきてあるよ」

「ならいいけど」

 オレはスポンジを手に、皿を洗い始めた。



 そうして、何事も無くその日を終えた。




 

《次章予告》→←…４

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す