愛を運ぼう【夏油傑】

…８ ページ13

 


「……好きにすれば」

　オレは付(つ)いて来るかはソイツ自身に任せて歩き出す。

「待ってくれ…！」

 そう言って駆(か)け足で付いて来るソイツ。

 結局(けっきょく)こうなるのか。家に家族以外を上げたことなんてない。その初めての人間が怪(あや)しげな勧誘文句(かんゆうもんく)を言う不審者(ふしんしゃ)なんて――目も当てられないわ。

 何でこんなヤツに捕まってしまったのかと自分の行いを悔(く)いそう。


「――さん、――さん」

 何か誰(だれ)か呼んでる声が聞こえる気がするけどほっと――「浅上さん！」

(！)

 ……何か言った、とオレは声を出す。

「いや…本当に上がっていいのかと思って…」

「オマエが言ったんじゃないわけ」

「それはそうなんだけど…女の子の部屋に上がっていいものか、悩ましいね」

「女の"子"じゃねえわ」


　自分が家にお邪魔(ジャマ)していいか訊(き)いてきたのに何なんだ今更(いまさら)。

 オレはさっさと帰って飯(メシ)でも食おうと足の速度を早める。

　せいぜい頭を悩ませてればいいわ、と心の中で悪態(あくたい)をついた。




＊
＊
＊



 鍵(カギ)を開けて、中に入る。

　オレはソイツの事などお構(かま)い無しに中に入ってエコバッグを冷蔵庫(れいぞうこ)の前に下ろす。

　その後洗面所(せんめんじょ)に向かおうと思ったものの、一向(いっこう)に入ってくる気配(けはい)がないソイツの方に戻った。


「入んの？ 入んないの？ どっち」

 ドアを開けたまま立っているソイツに、玄関(げんかん)から声をかける。

「あ、いや……」

　ソイツは苦笑(くしょう)する。

「念の為(ため)言っておくと、女性の家に入るのは初めてなんだ」

「あっそ。オレは家族以外を上げるのが初めてだけど」

 その言葉が更(さら)に追い討(う)ちになったのか、ソイツは黙(だま)り込(こ)む。

 しばらく腕(うで)を組んだままソイツの様子を観察していたものの、痺(しび)れを切らしてオレは口を開く。


「待ちくたびれるんだけど」

「……すまない」

 それでもソイツは動かない。



 

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