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「大丈夫? 悠仁」
「……俺ってそんな分かりやすいか?」
釘崎が去った方向へ視線を向けていた悠仁が、居心地の悪い目を私に向ける。
「好きな人に思わることが、一番幸せなことだと思うよ」
「いやまあ、そうなんだけどさ……俺だってモテてみてーよ」
("モテてもいい事ばかりじゃないよ"……なんて、言えたらな)
不特定多数に言い寄られ、嬉しく思う者は居るだろうが、私はそれで苦労してきた人種だった。
容姿だけが一人歩きし、見知らぬ人に名を呼ばれることは、まるで、もう一人の自分が歩き回っている様で、背筋が凍る思いだ。
物思いにふける私をよそに、突然視界が真っ黒になり、身体の重力が逆さになった。 驚く暇も与えずに、何かを斬り裂いたような、飛び散った音を耳にしては、その温もりに身を任せて経過を待つ。
「っと、平気か?」
「平気」
「下がって目ぇつぶってろ」
悠仁の安心する様な声にコクリと頷き、言われた通りに後方へ五歩ほど下がり、目を瞑る。
(気、使わせてる……情けないな)
その惨状を目にすると、どうなるか私でも予測がつかない。 悠仁の気遣いに、内から染み込むものを感じつつも、無力な自分に、このままではいけないと、自分に言い聞かせていた。
視界が暗闇で閉ざされている今、背後からこちらを覗く様な視線を感じ、肩が震えた。
(何か……いる!)
意を決して瞼を開け、後ろを振り返ると――
「ぉお、かあさん……や、ややめ、て」
噛み合わなくなったパーツが、ガシャン! と崩れ落ちるかのように、私は膝を着いてしまった。
奥の方で悠仁の「A!」と叫ぶ声が聞こえたが、目の前の呪いが、私に触れるのが先だった。
――『やめて、お母さん、やめて……いい子にしてるから! 言うこと聞くから! だから……』
――『勝手に産んだのはそっちでしょ……私は産んで何て頼んでないのに、酷い……憎い、許さない』
――『もう何も感じない。 感じたくない。 ……知らない』
恐れおののく声、怨嗟の声、倦厭の声が、次々と私の耳に訴えかけてきた。
一気に入り込んで来たものだから、頭の処理が追いつかないのだろう、ズキリと痛みが走ると、目の前の呪いが徐々に消えて行く。
消え行く呪いに、伝えなければ。 痛みに耐え、口を開く。
「生まれてきてくれて、――ありがとう!」
口から出た言葉は、呪う言葉でも、侮辱する言葉でも、同情する言葉でもない。
只々、――貴方に感謝する言葉だった
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クロワッサン(プロフ) - 猫助さん» たいっへん長らくお待たせいたしました(-_-;) コメントありがとうございます。 最新話更新いたしましたのでぐっすり眠れますね!! (2021年4月28日 3時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
猫助(プロフ) - 先が気になって気になって、夜しか眠れません…作者様、続きを…続きを…!(密かに応援しています。更新、ゆっくりお待ちしています!) (2021年2月27日 8時) (レス) id: b4292b3d94 (このIDを非表示/違反報告)
クロワッサン(プロフ) - 人形師さん» コメント遅ればせながらありがとうございます。 続きをお待ちいただいてありがたいです ^^) 嬉しいお言葉、ありがとうございます。 (2021年1月27日 15時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
クロワッサン(プロフ) - うたプリ大好き?さん» コメント遅ればせながらありがとうございます。 先を楽しみにして頂いて嬉しいです(*^^*) 作者かなりマイペースなもので…(^^; 気長にお待ちいただけると幸いです。 (2021年1月27日 15時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
人形師(プロフ) - 凄く面白いです!続きが気になります。応援してます!! (2021年1月25日 4時) (レス) id: 0a38f0e1cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クロワッサン | 作成日時:2020年11月19日 21時