飽和 ページ36
『おかえりなさい、夏油さん。今日は早いお帰りでしたね。』
伏黒達が無事に帰っていくのを見届けた後、夏油は今日の予定を全てキャンセルしてAの待つ住処へ帰った。
今日は疲れているのか、いつもにこやかに返事をする夏油だったが、話しかけるAを光のない目で見つめ黙っていた。
『げ、夏油さん…？』
ぼーっとしている夏油を心配そうに見上げるA。
今日あの双子は仕事をしているらしいから、この腑抜けた大男の対応はA一人でどうにかしなくてはいけなかった。
夏油はAに手を引かれるがまま、室内のソファへと座り込んだ。
頭の中では、今日の伏黒の言葉が鮮明に何度も思い起こされている。
”俺は俺の大切な人だけ”
術師、非術師を大きく分け、そのマイノリティを救う世界を作る。そんな風に考えていた夏油にとって、伏黒の不平等かつ自己中心的にも思える発言とその真っ直ぐな目は、強い衝撃となった。
私にもそんな風に考えた時があっただろうか。
慕ってくれた後輩。
共に戦い散った名も知らぬ戦友たち。
かつては檻に入れられ動物のように扱われた家族。
私の周りで苦しんでいたのはいつも術師だった。
『もーみもーみ。』
「？」
間抜けな声が聞こえたかと思うと、Aが夏油の手を握っていた。
Aは小指と親指に小さい手をかけ、手のひらを目一杯伸ばし、残った親指で夏油の広い手のひらを指圧した。
それがなんとも心地よく、ぐるぐると巡っていた夏油の思考は一気に晴れていく。
気持ちいい。
「それ何？A。」
『今の高校に入る前、受験勉強とか塾とかで疲れて帰るとお母さんがしてくれてたんです。』
夏油よりも高いであろう体温が、手のひらを通してじゅわっと溶け出すようにして夏油を癒していく。
『うち、母子家庭だったんですよね。だから，いい高校に行かないとって思って。まあ、それも今じゃ通ってないんですけどね。』
あはは、と笑うA。
一通り、手のひらを指圧したかと思うと、今度は手のひらをゆっくりと撫でながら”頑張ってる手、頑張ってる手”と繰り返す。
『え』
握っていた手を、振り解かれたかと思うと、Aは真っ暗な世界に包み込まれた。
このところ毎日嗅いでいる柔軟剤の香りが鼻腔をくすぐった。
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ゆうき(プロフ) - びびでばびでぶー (3月8日 22時) (
レス) id: de69babae1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - ここまでスクロールしてくれたあなたはこの小説のファンということでよろしいでしょうか (3月7日 21時) (レス) id: de69babae1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - はちゃめちゃにイチャイチャしてるの書きたい、ストーリー展開させていくのきちゅい (3月7日 21時) (レス) @page37 id: de69babae1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - コメントほちぃ… (3月3日 23時) (レス) id: de69babae1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆうき | 作成日時：2023年12月15日 18時
