聞こえますか、この声が。 (ページ35)

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ep.35 ページ35

佐野side

大晴くんの温もりが体から離れない。

甘えたら駄目やって

そう思っても、涙は止まらない

小さい子のように泣きじゃくる自分を、大晴くんはずっとずっと抱きしめていた。

「...帰ろか。」

手を握られて、夜道を歩く。

まるで、小さな子供みたいに。

でも、あの人に手を握られた記憶なんかない。

いつもそうやった。

『お前は、私のものだ。』

が口癖のあの人は、

出来のいい兄たちと違い、覚えが悪い自分を酷く殴った

痛みで動けなくて、床に倒れている自分を、母親は無視して、兄達は笑った。

ここに来て、初めて心配される事を知った

痛みに慣れているせいか、ゴロツキ達に殴られてもいまいち痛みがわからない自分を、いつも手当てしてくれるのは、正門くんで

戦闘が苦手な自分を鍛えてくれるのは、小島くんで

それを優しく見守ってくれる誠也くんとリチャくんがいて。

大晴くんは、こうやっていつだって、そばにいてくれる。

『お前が裏切り者であるという事実に変わりはない』

憎い。

憎い。

憎い。

あの人が。

そして誰よりも自分が憎い。

「お帰り...。遅かったな。」

「あーー、ごめん！ジョギング中にゴロツキに絡まれちゃってさー。なあ、晶哉？」

「ほんまに、最悪でした。」

普段以上に明るく振る舞う大晴くんは、結局さっきの事を見ないふりをする事を選んだらしい。

それ以上は深く聞かなかった、正門くんが作ってくれた、クリームシチューはいつもより何倍も体に染みて

抑えた涙がまた溢れそうだったけど。

必死に堪えて、かき込む。

自分が彼に傷つけられるのは構わない。

だって、慣れているから。

でも、この人達が傷つけられることだけは耐えられない。

守るよ。

俺の大事な家族を。