▲擬態 ページ5
無数の警備の目が光る裏路地。その様子はもうそこが尋常ならざる場所であることを知らしめていた。
「やっぱりここが本拠地で間違いないようですね」
「ふむ……予想以上に警備が厳重ですね。無駄な消耗を避けて侵入しますよ」
「はい」
エーミールさんがルートを指定して私がクリアリング。ゾムさんは別ルートから潜入して少し目障りなならず者達の淵叢を叩くのが今回の目的だ。慎重かつ大胆に、入り組んだ細い路地の深みへ歩を進めた。
「っ…………！？」
突然背中を冷たい壁に押し付けられる。何とか声は飲み込んだものの次に目に映ったのは視界いっぱいのエーミールさんで、頭の中をハテナマークが占めた。
「すみません、見つかってしまいました」
「それとこれに何の因果が……」
「こんなとこに居るのは裏世界の者か恋人くらいでしょう」
そう言うと、もともとかなり少なかった距離を更に詰められる。手は所謂恋人繋ぎで壁に縫い止められ、二人の間にあるのがどちらの吐息か分からなくなる距離。本能的に目を閉じると肌をなぞる息が角度を変える。呼吸がしづらく羞恥心に涙が滲んだ。
「すみません」
エーミールさんが小さく謝罪をして直後、暗闇の中で唇に何か触れる感覚がして肩が跳ねた。長くしっかりと押し付けられて嫌でも何が起こってるか分かってしまう。血が沸騰して脳がグラグラ揺れた。胸が、痛い。
「……行ったようですね」
「そ、そうですか…………」
「良い演技でしたよ」
私の体を起こして背中を払ってくれるエーミールさんはいつも通りだった。白い肌は白いまま、私ばっかり意識して、裏路地の寂しい風が心に空いた傷口を抉る。また見つかりそうになったら同じことをするのだろうか。ほんの少し期待を帯びながら、再び歩き出したエーミールさんの後ろについた。
演技じゃなかったんですよなんて、言葉に出来ないまま。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 134人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
野菜(プロフ) - 冬のみかんさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます！これからも「好き」と言っていただけるようなものをお届けできるよう2人で頑張りますね！ (2022年1月28日 9時) (
レス) id: 27822127af (このIDを非表示/違反報告)
冬のみかん - 初コメ失礼します。いつも見させていただいています！本当に好きです！これから続編の方でも頑張ってください！応援させていただきます！ (2022年1月28日 3時) (レス) @page2 id: b5169bd6bc (このIDを非表示/違反報告)
青条(プロフ) - 奏さん» コメントありがとうございます！イラスト素敵ですよね！お話読んでくださってありがとうございます。頑張って制作して参りますので気長にお待ちください……！ (2021年10月29日 21時) (レス) id: 3b14859680 (このIDを非表示/違反報告)
奏 - ぇイラストかっこよ。お話だけでも最高なのに!これからも作者様のペースで頑張ってください! (2021年10月29日 19時) (レス) id: 00420758bc (このIDを非表示/違反報告)
野菜(プロフ) - ラグさん» ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです！ (2021年10月9日 19時) (レス) id: 5520a4b1a9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
