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恐怖に涙を撒き散らすターゲットの表情も、生温い血の感触も、トリガーを引くその反動も、まだ鮮明に覚えている。そう遠くない過去、私の仕事はお偉いさんの代わりに命を賭けて相手の命を奪うことだった。生きるために命を危険に晒すなんて、てんでおかしな話ではあるんだけど。とにかく暗殺者のようなものをしていた。
しかしそれは全部、過去のお話。まだ昨日の事のように思い出せるそれらは全て私の前から消えたのだ。
今の私の仕事はこの部屋に居て、抱きしめられたり、時々キスされたりする。それだけ。エーミールさんの気分によっては唇を重ねられてそのままその先にまで行ったりもする。それだけで衣食住は確保される、とっても簡単なお仕事。
「Aさん」
その声に私が腕を広げると安心しきった表情で彼はそれに応える。探るように、窺うように背中に手を回し覆い被さる。彼はそうすることによって私の気持ちを確かめているようにも見えた。
「Aさん、退屈はしていませんか？何かあればすぐに言ってくださいね」
「大丈夫ですよ。帰ってきてくれれば、それで」
正直なところ、エーミールさんが何故こんなことをするのかさっぱり分からない。私はただの、本当に何の取り柄も無い一暗殺者だったのだ。それを元の雇い主から高額で買い付けて、そのくせ何もさせずにただ部屋に置いて養っている、その行動が心底理解不能だった。
「必ず帰りますよ。ですからAさんはここで待っていてください」
「はい、もちろんです」
エーミールさんは私を束縛したりなんてしなかった。鎖をつけたり、GPSをつけたりなんてしない。それは執着心が無いことの現れだろう。この人は私をこんなにドロドロに溶かしたくせに、何一つ執着なんてしていないのだ。
エーミールさんは抱きしめて、キスをして、それらをもう幾日も繰り返した。
そのせいで人の手の柔らかさを知ってしまった。キスの甘さを知ってしまった。愛情の熱さを知ってしまった。
それらはどれも依存性が高く、今まで知らずに生きてきたはずなのに、失われてはもう生きていけない気すらした。
「愛してますよ。Aさん」
「…………私もです」
お互い、何か致命的に欠けたものを埋め合わせるように唇を重ねる。彼にとってそれは私以外の誰かでも良いのだろう。たまたま、都合のいいところに私がいたにすぎない。本当に愛する人ができたら彼は、きっと。
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野菜(プロフ) - 冬のみかんさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます！これからも「好き」と言っていただけるようなものをお届けできるよう2人で頑張りますね！ (2022年1月28日 9時) (
レス) id: 27822127af (このIDを非表示/違反報告)
冬のみかん - 初コメ失礼します。いつも見させていただいています！本当に好きです！これから続編の方でも頑張ってください！応援させていただきます！ (2022年1月28日 3時) (レス) @page2 id: b5169bd6bc (このIDを非表示/違反報告)
青条(プロフ) - 奏さん» コメントありがとうございます！イラスト素敵ですよね！お話読んでくださってありがとうございます。頑張って制作して参りますので気長にお待ちください……！ (2021年10月29日 21時) (レス) id: 3b14859680 (このIDを非表示/違反報告)
奏 - ぇイラストかっこよ。お話だけでも最高なのに!これからも作者様のペースで頑張ってください! (2021年10月29日 19時) (レス) id: 00420758bc (このIDを非表示/違反報告)
野菜(プロフ) - ラグさん» ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです！ (2021年10月9日 19時) (レス) id: 5520a4b1a9 (このIDを非表示/違反報告)
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