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警棒をナイフで受け流し、そのままキックで彼を突き飛ばす、思ったより飛ばせなくて彼はまたすぐこちらに向かってくる。
「ねえ、なんでそんなに戦えるのに警備員やってるの？勿体ないわよ？」
「……俺にはこれしかないんや」
「そう、これしか、ね」
「何が言いたいんですか」
「貴方がそう思ってるなんて、ふふ、面白い」
近付いてきた彼へナイフを大きく振りかぶる、その隙を付いて腹を警棒で突かれてしまった。一瞬の出来事だった。咄嗟に後ろへ回避したけど、このお腹の痛さ……しっかり攻撃が当たってしまったみたい。
「観念してください、Aさん」
「けほ……こうやって他の人も殺したのかしら、同僚殺しのエーミールさん」
「な、どうして、それを知ってるんですか、どうして」
「貴方こっちの業界でも有名よ、敵味方関係なく手加減しない男だって。はは、真面目に仕事してるだけなのにね」
同僚殺しのエーミール。出会ったら必ず死体を見ることになると言われる、今一番の要注意人物。まさかこの美術館にいるとは思わなかったけど、噂の人物に名前まで憶えられてるなんて嬉しいわ。
そんな彼も、流石にこの話には動揺してるみたいで動きが止まった。今のうちに立ち上がって逃げる隙を見つけないと、本当に捕まっちゃう。それだけは嫌、折角味方の泥棒からこんなにお宝を盗んだのに全部取られちゃうなんて死んでも嫌。
「……そうや、真面目に仕事してるだけ、なのに」
「真面目に仕事してるだけなのに、なんで人が死ぬのかしらね」
「あいつらが、射線に入ってくるから悪いんや」
「そう、避けない同僚が悪いのよ」
目を伏せ悲しそうな表情の彼は、少し手を振るわせてそう呟いた。アイツらが悪い、自分は悪くない。真面目な警備員とは程遠い言葉に、私の胸が飛び跳ねて口から出ていきそう。
その思考回路をそちら側にしておくのは勿体ないわ。その葛藤も全て、こちら側の方がお似合いよ。
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