落ちてきてね【マイクラ大泥棒】 ページ8
外から僅かに漏れる月明かりが、私を追ってくる相手の位置を教えてくれる。出来るだけ足音を立てずに、けれど素早く逃げ道を進む。あらかじめルートを確保しておいてよかった、このまま行けば私の勝ちだ。
「待ちなさい、君！」
後ろから迫る気配に気付き、ギリギリのところで何かから回避した。相手から距離を取って振り向くと、警棒を握りしめてこちらを睨んでいる男。やだ、私にあんなものを思いっきり叩きつけようとしたの？そんなことされたら私だってひとたまりもないわ。
「最後の最後で見つかっちゃうなんてね」
「今日こそ逃がしませんよ、大人しく捕まりなさい」
「捕まりなさいって言われて捕まる泥棒がいる？」
真面目にそんなことを言う彼は、ジリジリと少しずつ距離を詰めてきている。警備員らしく髪の毛をきっちりまとめ、制服を着崩さず、泥棒を逃がさないようにこうやって追い詰める……とても模範的ね。真面目過ぎていつもの私ならこんな男なんて相手にしない。
でもね、目の前の彼はそうじゃないって、知ってるの。
「いいわよ、ちょっと相手してあげる」
「余裕があるのも今のうちや」
その言葉を合図に彼はまた警棒を振り下ろす。体を翻し、体勢を立て直してそのまま警棒を握る手を目掛け脚を振り上げた。当たった、確かに拳に当たったのに彼は警棒を落とさず、もう片方の手で私の足を捕まえる。
「どうしてっ」
「随分軽い蹴りですね、これが貴女の本気ですか？」
悔しい、こんな簡単に掴まれてしまうなんて予想外だ。懐に仕舞っておいたナイフを取り出し掴まれた手目掛け振ると、彼はナイフが当たる前に足を離し距離を取った。
警棒なんて素手で充分、なんて舐めすぎていたようね。悔しいけどナイフを使って彼と互角、いやまだ少し押されてる。正直彼がここまで強いなんて知らなかった。
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