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営業時間をとっくに過ぎた喫茶店で一人、俺はキッチンの清掃をしながら考え事をしてきた。
「はは…やっぱりそんな都合のいい話なんてあらへんよな」
あの時彼女が発した「好きに決まってるじゃないですか」という言葉。一瞬でも俺自身を好いているのだと勘違いしてしまった自分がとても恥ずかしかった。
初めてAさんがこの喫茶店にやってきた時、一目で恋に落ちてしまったのは今でも忘れていない。彼女がある日突然「ここでバイトさせてください」で申し出た時はどれだけ胸が躍ったことか。ほぼ形だけの面接を済ませてからすぐに採用してあげたのだった。
彼女が懸命に働く姿はとても愛おしかった。特に接客の際に見せてくれる笑顔は格別で、それを独り占めしてみたいと思う時が多々あった。
清掃を終え、ライターと煙草を手にして店の裏口から外に出る。
窮屈な蝶ネクタイを緩めて、シャツのボタンを外してだらしない格好で煙草に火をつけた。仕事中の俺の姿を尊敬してくれる彼女にこんな姿見られてもうたら絶対に幻滅されるやろうな。せめて彼女の前では格好いい姿だけを見せていたいので隠しているけど。
いつか俺自身のことも好きになってくれればええのにな、そんな願いはニコチンと共に体内を流れていった。
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