【em】茶色の裏表紙はまだ【合作企画】 (ページ35)

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「ありがとうございます、秘密にしてくれていて。」
「……へ」

酷く気の抜けた声が、Aの喉から出る。

「薔薇、まだ飾っていてくれたんですね」

椅子から立ち上がり、枯れた薔薇が一本入った花瓶の前に立つ彼。少ししてその大きな背中が退くと、それが新しい薔薇に変わっていた。百一本目だ。

「ほ、本当にエーミールさんなんですか？」
「はい。本物ですよ」

その言葉を言い終わったかAが抱き着いたか、どっちが早かっただろうか。

「すごい待ったんですからね…」
「だから、夜じゃないのに逢いに来ちゃいました」
「好きです、大好きです…来なさすぎて、もう諦めようとか思っちゃったんですからね……！」

彼の気持ちなんか窺わずに、ありのままの気持ちを伝える。

「私も、好きです。」

彼女にようやく渡せた愛の言葉。棘を丁寧にとって貴女が傷つかないように薔薇を渡してきたけれど、結局、傷つけていたのは私だった。エーミールはそんな気持ちを込めて「すいません」と謝った。

「今はそんな言葉より、好きって言って欲しい」
「…好きです、愛してますよ」
「…薔薇とは違って綺麗じゃないし、刺ばっかりだけど許してね」
「綺麗な薔薇には棘があるものですよ」

棘だらけで愛おしい彼女の身体を抱き締めて、エーミールは微かに笑った。