【em】茶色の裏表紙はまだ【合作企画】 (ページ33)

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次の日、約束通りエーミールはAを訪ねた。その手には、一本の薔薇。花瓶に刺すと、「これで少しは寂しくなくなりましたね」とエーミールは笑った。

「そういえば、エーミールさんは彼女とか居るんですか？」
「…秘密です」
「これは秘密にする意味無いですよね…？」
「…居ませんよ。居ません！これで良いですか！？」
「へー…優しいのに」
「よく言われますけど…でも、逆にその優しさのせいでモテないらしいです」
「確かに、優しさ止まりって感じしますね。」
「Aさんまでそんなこと…」
「ふふ、冗談ですよ」

エーミールとの話は楽しかった。彼の話の節々から覗く知性が彼は博識だと訴えていて、Aはそれに気付く度に何か胸の奥がざわざわとした感覚を覚えた。
そうして毎晩エーミールと言葉を重ねるうちにAは何時しか、沈まない月を探し求めるようになった。

「エーミールさん」
「はい？」

恋心を自覚してからは、エーミールから貰った一本の薔薇でも、この世のどんな高価なものよりも輝いて見えた。

「知ってます？今日で薔薇の本数、百本超えるんですよ」
「もうそんなにですか？あっという間に感じました」
「最初の方のはもう枯れてしまいましたけど…」
「大丈夫ですよ、これからも届け続けますし」
「…なんで、毎日私の所に来てくれるんですか？」
「嫌でした？」
「嫌じゃないですけど…不思議だなって。」
「ふふ、秘密です」
「またぁ！？」

「疲れていたら無理に来なくていいんですよ」と伝えたら、「過剰な杞憂ですよ」と言われてしまった。そんな事言われても、この頃彼の目の下に住まう隈が心配なのだ。

「じゃあ、また。」
「うん、おやすみ。」

さよならは決まって、彼の姿を見ないようにしている。絶対に引き留めたくなってしまうから。