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「……ふうん。そんで、そのオトコノコに会えたらどないするん？」
「え？……か、考えてなかったわ！」
「だってAちゃん一回ここ引っ越して県外行ったやん。んで、親の再婚で戻ってきたやん。ワンチャンないとおもわん？」
その発想はなかった。確かに私は親の離婚がきっかけで、母方の実家へと引っ越しをした。その後父は日本を離れて海外へ行ってしまったことはわかっていて、母も新しい恋を見つけ、再婚へと至った。再婚のためこっちに戻ってきたということは、あの人が居る可能性がほんの少しでもあるということ。何も考えていなかった。
「うわ、えっ！ど、どうしましょう！」
「知らんがな」
「あ、でも……そうね、ちゃんと、お礼は言いたい。よ、よかったら、またお菓子食べてほしい」
「ほーん」
「聞いておいて他人事じゃない？鬱くん……」
「他人事やし」
もしも会えたら。あの時の貴方の言葉にたくさん救われたことを伝えたい。ありがとうっていう気持ちと、もしよければ私の作ったお菓子を食べてほしい。あの頃よりは上達しているはずだから、ちゃんと美味しいものを上げたい。
きっと、無意識化なんだろう。バレンタインに固執するようになったのも、チョコレートを使ったスイーツをたくさん作るようになったのも、それを同級生や悩みを抱える女子に教えて回っているのだから、心の何処かで私と同じ想いをしてほしくないのだと思っているからなんだ。現に同じように料理が苦手だったりうまく伝えられない女の子は多くいる。私の教えるこのスイーツたちが、彼女たちの勇気のひとつになればいいと願っている。
「……ちなみに、どんな男なん？そいつ」
「えっと、実はそんなに覚えていないの。すごく物腰が柔らかくて、優しく声をかけてくれたっていうのは覚えているんだけど、涙でぼやけていたし、逆光でそんなに見えていなくて」
「え！？そんなぼんやりしとったのに慕ってん！？は〜健気やのう！」
「子どもの頃の話なんだから別にいいでしょう！？でも確かに、私彼のこと何も知らなかったわ……あれはきっと名前ではないと思うし……」
「なんや名前知っとるん」
「本人があだ名なんだけど、って言ってたの」
エーミールくん。
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