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彼は私の擦りむいて痛かった膝を痛くしないように手当てをしてくれた。先程まであんなに怖かったのに、なんでこんなに優しくしてくれたのだろう？
｢…あ、ありがとう、ございます…｣
｢いえいえ、Aさんに傷が残ったら大変ですから
…そうですね、こうなっては仕方がありません。貴方のお家まで送ります｣
｢え…？！い、いや、その…｣
｢お願いです。それくらいさせて下さい！あとはこんな夜遅くだったのでご飯も食べていないでしょう…？何か一品、作らせてください｣
何度か押し問答はあったが、結果的に折れたのは私の方だった。そこまで言うなら…と暗い夜道を早足で去っていく。夜風に吹かれて彼の身についた血の匂いが鼻につく。不思議とあまり嫌な気はしなかった
｢…た、ただいま……あれ？ママ？パパ？｣
｢いらっしゃらないのですか？なら私がご飯作っても良い感じですね。お邪魔しますよ｣
両親の靴はあるが、返事は無い。挨拶にうるさい両親が挨拶を無視するのはかなり珍しく、少し困惑していると彼はそんな私を気にせずに自身の靴を綺麗に並べて家へと入っていく。我が物顔してるけど、初めて入るよね…？と更に困惑しながらも鍵を閉めて彼の後を追う
｢食器類は勝手にお借りします。リビングで待っていて下さい｣
私の家なんだけどな…と思いながらも、ここで反発したら何をされるか分からないからと大人しくソファで待つ。何を作ってるかは分からないが、かなり固い物を切っているらしくガタン、ガタン、とまな板が揺れている音が聞こえる
｢……Aさん、ウミガメのスープってご存知ですか？｣
｢あ、えっと。水平思考ゲーム、ですよね…？｣
｢そうです、水平思考ゲーム。質問力の強化を測る訓練とも言えますね｣
コンロを付ける音、水を鍋に入れる音、彼の声、私の恐怖と緊張によって聞こえる心臓の音。全てが何だか非現実的で落ち着かなかった
｢では、ウミガメのスープの元となったお話はご存知ですか？｣
｢は、はい。確かレストランで男がウミガメのスープを頼んで、その後に死んだ、みたいな…｣
｢そうですそうです、よくお知りで…｣
お湯が沸騰する音と、彼の小さい笑い声が部屋の中でやけに響く。彼は一度咳払いをすると、音読をするかのように、はたまた呟くかのように声を出した
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