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ガチャ。ドアが開いて、また風が発生する。今度こそ落ちる前に押さえつけて、訪問者を見ると、先程帰ったはずのエミさんがそこに立っていた。
「あれ、忘れ物？」
「ああ。そうだな」
長い足を無駄なく使ってあっという間に隣に来ると隣の椅子を引いてそこに座る。忘れ物したんじゃないの？首を傾げるとエミさんは手に持っていた甘味を机に広げた。
「え……？何これ？」
「頭を使って疲れてるだろう。……ブレイクタイムにしないか」
普段口を開けばサボるなだのなんだのと言ってくるエミさんが、足で無理やり私の向きを変える。回転式の椅子は私より従順にエミさんの方を向き、私の手にはお茶が握らされた。
「私そんなに酷い顔してる？」
「ああ。今にも倒れそうだ」
「そんな事ないんだけど」
「いいから、食え」
丁寧に包装を剥がれた饅頭が乱雑に口にねじ込まれる。一口で詰め込むには少し大きくてエミさんを睨んでみたけど、特に効いてないようだった。
「おいし……」
「それは良かった」
薄い皮の中にぎっしりと詰め込まれたこし餡の丁度いい甘さが疲れた頭には沁みる。ポカポカとした今日の天気も相まって花見と行きたいところだが、生憎もう全ての桜は散った後だ。少し遅咲きの八重桜でさえそこまでのんびりはしていない。残念だけど。
脳裏に桜を思い浮かべてお茶を啜れば、緑茶の苦味が饅頭の甘味と中和して広がる。これに抗える日本人なんて存在するのだろうか。
「…………体は資本なんだ。もっと大切にしてくれ」
「はいはい。業務に穴開けないように頑張りますよ」
「そういう意味で言ったわけじゃないんだが……」
エミさんが困ったように眉を寄せる。
それ頂戴。エミさんが手に持っていたお団子を指さすと、エミさんはそのまま傾けて私の口元に寄せると、饅頭よろしくそれを口に押し付けた。不器用な彼の優しさが口いっぱいに広がって思わず破顔する。それを見てふわりと微笑んだエミさんは、お団子と同じ味がした。
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