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26話・エゴを貫き通す ページ26

届かなかった。

屋上から遥か遠くの地面に視線を落とす。アスファルトに鮮やかな赤が広がっている。少女の頭から流れ続けるその光景を見下げた自分。

遠くで悲鳴が聞こえる。掴まなかった手が震え出す。喉の奥から急激に込み上げる吐き気。

声にならない絶叫があたりを包み込み、激しい後悔と共に「なんで救えなかった」と自分を永遠に責め続けて…


「そんな未来を想像するだけで俺は怖くて仕方がねぇよ」


東方が伸ばした手は確かに届かなかった。

だが、その先にさらに伸びたピンク色の逞しい腕…自身のスタンドが手を伸ばして彼女の手を掴んでいた。

ぶら下がるAを屋上から見下ろす。助かる気がない彼女は手を掴み返しもせず、呆然とこちらを見上げていた。

「俺さ、あんたと出会ったこと後悔してる」

抵抗するAの手を引っ張り上げる。彼女が暴れる度に東方の顔は歪んでいく。

なぜ、そんなにも死を望むのか。理解したくない。

「気付きたくなかったんだよ。手を差し伸べたって相手が救われる気がなければ何も意味がないって。ただのエゴになっちまうんだって」

引っ張り上げたのち屋上の方へ乱雑に放り投げた。転がり倒れる彼女の側に立って見下ろす。

「分かってほしい。あんたは何も悪くない。救われる側の人間だって…そう、俺が何度も言おうともう聞いてくれることはないんだよな。そしたら…あんたはこういうだろ?もういいやって投げ出せと俺を諦めさせてくる。面倒な奴は放ってしまえばいいって。それが一般的な考え方だと論する」

図星なのか顔を上げて向けられた瞳は揺らいでいた。

彼女の考え方は大して周囲に期待したことがなかった人間の回答だ。適度に人を信用せず生きていた方が楽だと過去の経験で学んだのだろう。間違ってるとは言わない。

ただ、ひどく虚しくて悲しい。

「俺は自分の心に従ってそれを許すことができない。そしたら相反した意見がぶつかり合っていつまでも解決しない。だからこそ…あぁ、俺はこんな選択はしたくなかったんだ。エゴを貫き通すことになっちまうんだから」

一度は救えたと思ったというのに。笑顔で話し合えたというのに。未来の話もできたっていうのに。だが、彼女の取り巻く劣悪な環境がそれを許さない。

そして、一番許さなかったのは彼女自身だった。

だったら、劣悪な環境も彼女の美しい自己犠牲心も全て…壊さなければならない。たとえ、どんな手を使ってでも。

「そんなに死を望むなら…俺の手で殺してやるよ」

27話・伝える手段→←25話・分かり合えない



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圧倒的睡眠不足(プロフ) - 知らず知らずのうちに完結されていらっしゃる...だと...ッ!?流れから文の書き方からオチまで全部素敵すぎて引き込まれてしまいました!素敵な作品をありがとうございます! (5月7日 17時) (レス) @page32 id: 33f559404d (このIDを非表示/違反報告)
匿名M(プロフ) - 圧倒的睡眠不足さん» コメントありがとうございます!前作も読んでいただき、今作まで…本当に嬉しいです!めちゃ良きなストーリー展開を続けられるよう頑張ります! (11月19日 22時) (レス) id: 0253a37101 (このIDを非表示/違反報告)
圧倒的睡眠不足(プロフ) - 前作ジョルノの小説も読ませていただいてました、新作もめっちゃ良き…!更新楽しみにしてます! (11月19日 13時) (レス) @page3 id: 97d79e1a3f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:匿名M | 作成日時:2023年10月27日 10時

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