3話・夢見が悪い ページ3
屋上を後にした足は徐々にスピードを落としてピタリとその場に立ち尽くした。
ひどい顔をしていたに違いない。
Aは東方に先ほど向けた表情を思い返した。
嫌悪と嫉妬と悲観。負の感情の全てを入り混じえて相手の姿を見据えた。実際に彼の瞳に映る自身はとても醜く見えた。
「…なにやってんだろ」
止めていた足を動かし、先ほどの出来事を頭から追っ払おうとする。だが、頭は勝手に先程の出来事をぐるぐると意味をなく思い返す。
たまたま居合わせた彼に八つ当たりしても仕方がないというのにみっともない姿を見られた。
嫌なことばかりだとAはため息をついて辿り着いた教室の扉を見つめる。
そろそろ気持ちを切り替えなくてはならない。
これからもっと嫌なことがあるのだから。
震える手を握りしめてAは扉を開いた______
Aは重たい瞼を開いてゆっくりと周りを見渡す。とっくに授業は終わっている時刻で生徒は誰もいない。
「…」
汚れた制服を軽くはたいて重い腰を上げて立ち上がる。教室を出て下駄箱へ行き、靴箱を開ける。今日はちゃんと存在している靴にホッと息をついた。
そこから校舎の外への扉を潜ったときだった。
「お、やっと出てきたっすね。待ちくたびれたっすよ」
「…!」
声の方へ顔を向けると校舎の壁に背を預けた東方の姿があった。なんでこんなところに…と呟くと彼はこちらに歩み寄ってきた。夕暮れの光を浴びていたが、彼の大きな体が遮って影を落とす。
「会いたくて…なんて冗談すよ。そんな顔しないで下さい。まぁ、でも普段見ない顔だと思ったら俺より年上だったんすね。せーんぱい」
片眉を上げて笑う東方は挑発的だった。何が目的なのか分からない相手にAは後ずさる。
「ちこーっとあんたのこと調べたんすよ。つっても人づてに色々聞いただけっすけど。先輩、随分と学校に"馴染めてない"んすね」
馴染めてない。
それはAの学校生活の全てを指していた。
馬鹿にしたような言い方にしか聞こえず、カッとした勢いのまま相手の頬を打とうとしたが、その手をあっさりと掴まれる。
「別に見ず知らずの相手の事情に突っ込むつもりはなかったんすよ?それも屋上で一度きりあった相手。けど、その相手が未遂でも命を投げ出そうとした」
東方は顔を近づけては挑発的な顔から一変、鋭い目つきでAを見据えて笑みを消した。
「単刀直入にいう。死なれたら夢見が悪いんすよ。だから、俺はそれを食い止めにきた」
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圧倒的睡眠不足(プロフ) - 知らず知らずのうちに完結されていらっしゃる...だと...ッ!?流れから文の書き方からオチまで全部素敵すぎて引き込まれてしまいました!素敵な作品をありがとうございます! (5月7日 17時) (レス) @page32 id: 33f559404d (このIDを非表示/違反報告)
匿名M(プロフ) - 圧倒的睡眠不足さん» コメントありがとうございます!前作も読んでいただき、今作まで…本当に嬉しいです!めちゃ良きなストーリー展開を続けられるよう頑張ります! (11月19日 22時) (レス) id: 0253a37101 (このIDを非表示/違反報告)
圧倒的睡眠不足(プロフ) - 前作ジョルノの小説も読ませていただいてました、新作もめっちゃ良き…!更新楽しみにしてます! (11月19日 13時) (レス) @page3 id: 97d79e1a3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名M | 作成日時:2023年10月27日 10時