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艇に乗ってからのカタリナが妙に優しいのは、それが理由なのかもしれない。迅のような子どもを戦場に出すのがつらくて、憐れで仕方がないのかもしれない。
「齢の離れた弟がいてね。身体が弱くて寝たきりなんだが、賢くて愛嬌がある。その子を養うために、私は軍に入ったんだ。軍は払いが良い」
「弟」
「そうだ。王都からは遠い村に住んでいる。…………数年前、敵国の兵がその村を荒らしに荒らしたんだ。村の数人が殺されて、弟も今にも殺されそうになったっていうときに助けに来てくれたのが、Aだったらしい」
「らしいって？」と迅が首を傾げると、カタリナは「私はそのとき王都にいたんだ」と付け足した。そしてゆるゆると首を振り、「何のために軍に入ったんだか。情けないったらありゃしない」と自らを責める。
生き残った村人の話では、Aはその後敵国の兵を全員見事に葬ったのだそうだ。ちゃんと子どもの目には入らないようにしたというからAらしい。そしてその後、カタリナが現着するまで弟の傍にいたということだ。
「だから私はAに感謝しているし尊敬もしている。Aに友だちと呼んでもらったときの誇らしさも忘れない。そんなことはないと思うが、Aの命が危険なときは私が身代わりになるのも辞さないつもり」
「……弟を遺しても？」
「私が死んだらAに保護してもらうことになってる。まあ、大丈夫だろうさ」
迅はまだ知らない、大人のどす黒い世界を垣間見た気がした。その中でたった一粒、黒を洗い流したのがカタリナにとってのAだったのだろうと迅にはわかった。
未知の"近界民"であったカタリナは、迅にとってはすでに"仲間"のうちに入っている。
あのカタリナが歩み寄ってきてくれたのだと思うとうれしくて、迅が頬を緩めてカタリナを覗き込む。するとカタリナは煩わしそうに顔をしかめた。……仲良くなるにはもう少し時間を要するらしい。
そのとき、がちゃりと音がして扉が開かれた。
「カティ、朝食を……、なあに、二人で内緒話？ 妬けるなあ」
「誰がこんなやつと内緒話なんてするか」「この人と内緒話なんてできるわけないでしょー」
「おー、仲良くなったみたいだね？」
「仲良くなんかなってない！」「仲良くなんかなってない！」
Aはにやりと悪どい笑みを浮かべ、「そっかそっか」と絶対にわかっていない様子である。迅もカタリナと被るのは不本意だ。今後被ることはおそらく二度とない、と思いたい。
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ノア(プロフ) - Noahさん» あいしてます (2021年9月21日 17時) (
レス) id: dd57ce1718 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - 金の帳さん» ありがとうございます。迅さんカッコいいですよね！ 続編もよろしくお願いします。 (2021年9月21日 17時) (レス) id: dd57ce1718 (このIDを非表示/違反報告)
Noah(プロフ) - すきです (2021年3月20日 2時) (レス) id: 3eb26abe40 (このIDを非表示/違反報告)
金の帳 - めっちゃおもしろいです！迅さんはやっぱりかっこいいですね！更新楽しみにしてます！ (2021年2月8日 23時) (レス) id: 1e8abd378d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ノア | 作成日時：2021年2月7日 10時
