百六十二歩 ページ34
｢ルーク先輩も、二人を見習って欲しい｣
｢そうだね…私とした事が、我が君が苦しんでいるというのに、ポムフィオーレ寮の副寮長の名折れだね｣
｢俺の好きなルーク先輩はヴィル先輩を肯定しない先輩ですよ｣
｢私はヴィルを否定などしないよ｣
当然のように否定するルーク先輩が笑えた。
確かに言葉的には肯定しているけどね。
駄目な所も素敵だよ、と言葉を歪ませて。
｢あの人は先輩に嘘がないと信じてるから副寮長に選んだんだと思います｣
｢…そうでありたいと、私も思っているよ｣
スマホに問いかけるよりも、確実な真実をルーク先輩は伝えられるはずだ。
欲しい言葉だけを与える人じゃない、ある意味データに塗れた機械の言葉よりも冷たいかもしれない。
ただ、言葉の後に寄り添う事がルーク先輩には出来る。
｢鏡に問い掛けるよりも隣人の声に耳を傾ければいいのに｣
｢ヴィルの仕事柄、無視できないものだと理解していたが…そうだね、それにばかり囚われては彼自身の本来の美しさが損なわれてしまう、私は彼のありのままの美しさが愛しいんだ｣
努力家で、妥協を許さなくて、真っ直ぐで、揺るがない彼の信念が強くて美しい。
それを愛しいと思うルーク先輩の気持ちもわからないでもない。
愛しいとまでは俺は言えないけど、好ましいし憧れるのも事実だ。
｢ヴィルの本来の美しさを取り戻そう…手伝ってくれるかい？｣
｢出来る事はしますよ、えぇ｣
｢十分だよ…カリム君、ジャミル君、トリックスターとグリム君も、ヴィルの為に力を貸してくれるかな？｣
｢おぅ、勿論だ！｣
｢今のままはこちらにも都合が悪いですからね｣
｢ジャミル先輩、そこはカリム先輩を見習いましょうよ｣
｢王道主人公キャラのジャミル君とか…罰ゲームか？｣
｢A、ぶっ飛ばされたいか？｣
そんな冗談ですやん、嫌だなぁジャミル君てば〜
｢お願いしますからシリアス破壊は自寮内でやってください｣
｢監督生が正論言ってる辛｣
｢俺様が一番辛いんだゾ！無視すんな！｣
｢グリム様頑張れ！青い炎期待してる！！｣
｢取ってつけたヨイショなんかに乗せられねぇんだゾ｣
しょげるなしょげるな、可愛いだけだわ。
お陰で涙引っ込んだわ。
そしてジャミル君の目が怖い、ごめんですやん。
コロシアムに出た俺達が色んな意味で俯く中、一年生組が合流して、現状確認が行われた。
毒の霧で外に出られないとの事で、とりあえず俺達でヴィル先輩をどうにかしなきゃいけないのは変わらないらしい。
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作者名：きない | 作成日時：2021年1月13日 18時
