チグリジア 2

お願い ページ48

お酒を片手に向き合うのはローレンの配信画面。スクリムは一敗しただけだと聞いていたし、間違いなく優勝候補に名を連ねていた。

画面の向こうでローレンがひどく落ち込んでいるのが痛いほどわかる。いつも絶好調に軽口を紡ぐ彼の言葉が出ない様子は、初めて見たかもしれない。

ローレンは確かににじさんじ内で見ればFPSの腕は他の追随を許さないほどうまい。それは箱内にとどまらず、彼の強さ、チームにいることの強みは配信者の中でも有名だ。

だからだろうか、対ローレンチームという存在はうっすらとした恐怖がある。ここに勝たなきゃ絶対に無理と思わせるような、自然と相手チームのやる気に火をつけてしまったのかもしれない。

今回、優勝すると殊更意気込んでいただけに、彼の心境は推し量れない。私が言えるセリフは惜しかったね、でも、3位おめでとうでもない。

お疲れ様と送ったメッセージ画面に次の文が思いつかないまま意味もなく文字盤をタップしていると、ついてしまった既読の文字に慌てて消去ボタンを連打する。

ありがとう、と返ってきたそれに眉間にしわが寄る。やるせなさなのか、悔しさを見せてくれないことへの歯痒さなのか。

結局何も思いつかなくて、せめて元気を出して欲しいという願いを込めてご飯でも食べに行こうとしか言えなかった。

そんなやりとりをした2日後。いつものように「おはよ」と届いたメッセージ。いくらなんでも寝すぎだろうと苦笑をしながら、私も同じように挨拶を返した。

するとメッセージではなく通話がかかってきて、努めて明るい声で電話に出た。

「おはよ！よく寝れた？」

「寝た。めっちゃ寝たね。40時間寝たよ」

「寝すぎでしょw」

「寝違えてあちこち痛くはあるよ」

「首曲がる？平気？」

「一旦無理かも」

よかった、ローレンが笑っている。きっとまだ引きずっているだろうけど、少しでも元気は出たようだ。

「あのさ、Aは今空いとる？」

「今日はもう予定ないから空いてるよ」

「ガチ？！空いてるマ？！」

なんだその反応は。まるで私が休みなく働いてる人間みたいな…いや実際そうか。にじフェス終わればちょっとは時間できるし…。

「どした？」

「や、もしよかったらなんだけどさ…」

「うん？」

「メシでもどうかなって」

「いいじゃん！行こうよ！準備するわ」

「うん…」

「何食べに行こうか？ローレンなんの気分？」

「…わがまま言ってもいい？」

「いいよ？」

「Aの作ったメシが食いたい」

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